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魚のことば

鰯雲(いわし雲)の意味と由来 江戸の本は鰯が寄る時の雲と書いた

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この記事の目次

江戸の季語の本『月令博物筌』は、鰯雲を「西の雲暮に赤きをいふ此とき鰯多し」と説明しています。夕暮れに西の空が赤く染まる雲で、そのころは鰯がたくさん獲れる、という意味ですから、秋の晴れた日に空の高いところへびっしり並ぶ白い小さな雲とは、ずいぶん違う雲を指していたことになります。

いま鰯雲(いわし雲)の意味といえば、小さな白い雲のかたまりが群れになって広がる秋の雲のことで、「うろこ雲」「さば雲」と呼ぶ人もいます。鰯の群れに見えるからそう呼ぶ、という説明がはっきり本に出てくるのは、見つかった範囲では明治に入ってからでした。

『梅園魚品図正』巻一コマ11の鰯の彩色図。青緑の背に黒い点が並ぶ魚を右向きに描き、右上に「鰮」の見出しと書き入れがある
天保6年(1835年)序の『梅園魚品図正』に描かれた鰯。見出しは「鰮」、右に「和名イハシ」、下に「乾タルヲホシカト云」の書き入れがある。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻一・NDL PID:1287112 コマ11・著作権保護期間満了)

天明3年、月を隠す「鰯くも」

国立国会図書館の次世代デジタルライブラリーで引くと、書き方によってヒットの数がずいぶん違い、「鰯雲」で217冊、「いわし雲」で52冊、「いわしぐも」で37冊、「いはし雲」で21冊が見つかりました(2026年10月15日に検索)。「鰮雲」も19冊ありますが、ほとんどは水産物の品名「鰮雲丹(鰛雲丹)」の一部で、雲とは関係がありません。

かな書きの「鰯くも」で引き直すと、6冊のうち5冊が同じ一首の狂歌を載せていて、その狂歌集の序文には「天明みつのとし」、天明3年(1783年)の年記がありました。年がはっきりしているものでは、見つかった中でいちばん古い例です。序文の終わりには「萬載きやうかしふとなづく」「天明みつのとしはるの日の、なが〳〵とえらび終れるになんありける」とあって、名は「朱樂菅江」、つまり春の日の長い一日をかけて選び終えた、と結んでいます。

有朋堂文庫『万載狂歌集』コマ123の見開き。右ページは序文の終わりで「天明みつのとしはるの日の」と「朱樂菅江」、左ページに「萬載狂歌集 巻第一」「春歌上」
右ページは『万載狂歌集』の序文の終わり。「萬載きやうかしふとなづく」「天明みつのとしはるの日の、なが〳〵とえらび終れるになんありける」とあり、名は「朱樂菅江」。左ページから「巻第一 春歌上」が始まる。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(有朋堂文庫『古今夷曲集・万載狂歌集・徳和歌後万載集』・有朋堂書店・大正12年・NDL PID:977943 コマ123・著作権保護期間満了)

開いたのは、江戸の狂歌集を三つ一冊に組み直して大正12年(1923年)に有朋堂書店が出した活字本です。狂歌は和歌の形を借りておかしみや洒落を詠む歌で、目当ての一首は、巻第五「秋歌下」の月を詠んだ歌が続くところにありました。

『万載狂歌集』コマ145の「芝浦の漁人も網をうちわすれ月にはいとふ鰯くも哉」の列と翻刻
題は「浦月」、作者は四方赤良。「芝浦の漁人も網をうちわすれ月にはいとふ鰯くも哉」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『万載狂歌集』巻第五 秋歌下・有朋堂文庫『古今夷曲集・万載狂歌集・徳和歌後万載集』・大正12年・NDL PID:977943 コマ145・著作権保護期間満了)
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芝浦の漁人も網をうちわすれ月にはいとふ鰯くも哉

現代語訳

題は「浦月(浦の月)」。芝浦の漁師も網を打つのを忘れて月に見入る。その月夜には、月を隠す鰯雲がうとましい。

「芝浦の漁人も網をうちわすれ月にはいとふ鰯くも哉」。題は「浦月(うらのつき)」、作者は四方赤良(よものあから)です。江戸の海辺、芝浦の漁師も網を打つのを忘れて月に見とれていて、その月夜には、月を隠す鰯雲がうとましい、という歌でしょう。鰯を獲るはずの漁師が、鰯の名のついた雲をいやがるところに狂歌らしいおかしみがあって、少なくとも天明3年には、鰯雲は江戸の人に通じる言葉でした。

江戸の季語の本は「西の雲暮に赤きをいふ」

季語を集めた本では、鳥飼洞斎(とりかい・どうさい)の『月令博物筌(がつりょうはくぶつせん)』が、国立国会図書館サーチの書誌では文化元年から5年(1804〜1808年)にかけて刊行されています。月ごとに季語を並べてその意味と例句を添えた本で、秋の巻を開くと鰯の季語がまとまって並んでいて、右ページの中ほどに大きく「鰯雲」の見出しがあり、その右に「鰯引」、左に「鰻簗」が続き、左ページは本屋の広告になっていました。鰯引と並んで雲の季語が置かれているところからも、この本が鰯雲を漁の季節の言葉として扱っていたことがうかがえます。

『月令博物筌』刊本コマ43の見開き。右ページに「鰯雲」「鰻簗」などの見出しが並ぶくずし字の本文、左ページは本屋の広告
木版の『月令博物筌』。右ページの中ほどに大きく「鰯雲」の見出しがあり、その右に「鰯引」、左に「鰻簗」が続く。左ページは本屋の広告。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(鳥飼洞斎『月令博物筌 16巻』[13]・NDL PID:2557818 コマ43・著作権保護期間満了)

木版のくずし字は読みにくいので、明治27年(1894年)に活字で組み直した『改正月令博物筌』で同じ項を読みます。

『改正月令博物筌』秋之部コマ119の「鰯雲 秋 西の雲暮に赤きをいふ此とき鰯多し」の項と翻刻
見出し「鰯雲」(振り仮名「いわしくも」)、季は「秋」。「西の雲暮に赤きをいふ此とき鰯多し」。続けて例句「山いくつ七ッ目鏡にいわし雲」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(鳥飼洞斎『改正月令博物筌』秋之部・交盛館・明治27年・NDL PID:874901 コマ119・著作権保護期間満了)
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鰯雲 秋西の雲暮に赤きをいふ此とき鰯多し(俳)山いくつ七ッ目鏡にいわし雲 來示

現代語訳

鰯雲(秋の季語)。西の空の雲が夕暮れに赤くなるのをいう。このころは鰯が多い。例句は「山いくつ七ッ目鏡にいわし雲」。

「鰯雲 秋 西の雲暮に赤きをいふ此とき鰯多し」。この本の鰯雲は夕焼け雲で、鰯の字は雲の形ではなく、鰯がたくさん獲れる時季のほうに結びついています。例句には「山いくつ七ッ目鏡にいわし雲」が挙がっていて、句の中でも秋の季語として使われていたことが分かります。

『栞草』は「波の如し」の白い雲

もう一冊、曲亭馬琴が編み、藍亭青藍(らんてい・せいらん)が増補した『増補俳諧歳時記栞草(しおりぐさ)』を、明治18年(1885年)に柳原喜兵衛らが出した版の「秋」の巻で開きました。巻頭の右上に書名、その下に「曲亭主人纂輯」「東京 藍亭青藍増補」と編者の名があり、左へ「七月」「立秋」「新秋」と、秋の季語が月の順に続いていきます。

『増補俳諧歳時記栞草』秋の巻コマ2の巻頭。右上に書名、その下に「曲亭主人纂輯」「藍亭青藍増補」、左に「七月」「立秋」の見出し
秋の巻の巻頭。右上に「増補俳諧歳時記栞草」の書名、その下に「曲亭主人纂輯」「東京 藍亭青藍増補」。左へ「七月」「立秋」「新秋」と季語が続く。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(曲亭馬琴 編・藍亭青藍 補『増補俳諧歳時記栞草』秋・柳原喜兵衛等・明治18年・NDL PID:875329 コマ2・著作権保護期間満了)

「鰯雲」の項は、鰯の項のすぐあと、「八月」の見出しの手前にあります。

『増補俳諧歳時記栞草』秋コマ6の「鰯雲 秋天鰯先よらんとする時、一片の白雲あり、その雲段々として波の如し」の項と翻刻
見出し「鰯雲」と「秋天鰯先よらんとする時、一片の白雲あり、その雲段々として波の如し」。「段々」は原本では踊り字。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(曲亭馬琴 編・藍亭青藍 補『増補俳諧歳時記栞草』秋・柳原喜兵衛等・明治18年・NDL PID:875329 コマ6・著作権保護期間満了)
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鰯雲秋天鰯先よらんとする時、一片の白雲あり、その雲段々として波の如し……

現代語訳

鰯雲。秋の空に、鰯がまず(浜へ)寄ってこようとするとき、ひとひらの白い雲が出る。その雲は段々になって、波のようである。

「秋天鰯先よらんとする時、一片の白雲あり、その雲段々として波の如し」。秋の空に、鰯がまず浜へ寄ってこようとするとき、ひとひらの白い雲が出て、それが段々になって波のようだ、というのです。こちらは白い雲で、形も「段々として波の如し」と、今の鰯雲にぐっと近くなりましたが、名前の理由はやはり雲の形ではなく、鰯が寄ってくる時の雲だからと説明されています。

『月令博物筌』刊本と『増補俳諧歳時記栞草』の「鰯雲」の見出しを大きく切り出して並べたもの
右が『増補俳諧歳時記栞草』秋コマ6の見出し「鰯雲」、左が木版の『月令博物筌』コマ43の見出し「鰯雲」(右に振り仮名「いわしくも」)。二冊から切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(NDL PID:875329 コマ6/NDL PID:2557818 コマ43・著作権保護期間満了)

明治の露伴「鰯などの群るゝ如く」

雲の形が鰯の群れに見えるから、という説明が出てくるのは、明治34年(1901年)の幸田露伴の随筆集『讕言(らんげん)』です。雲にまつわる話を短く並べた「雲のいろいろ」という文章に、「いわしぐも」の段があります。

『讕言』コマ21の「いわしぐも」の段と翻刻
見出し「いわしぐも」から「童兒などは、此雲を指さして、鰯の取るゝ兆なりといふもまたをかし。」まで。あいだに天明ごろの狂歌として「芝浦の漁人も網を打忘れ月には厭ふいわし雲かな」を引く。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(幸田露伴『讕言』「雲のいろいろ」・春陽堂・明治34年・NDL PID:889311 コマ21・著作権保護期間満了)
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いわしぐも鰯雲といふは、鰯などの群るゝ如く點々相連りて空に瀰るものを云ふなり。……童兒などは、此雲を指さして、鰯の取るゝ兆なりといふもまたをかし。

現代語訳

鰯雲というのは、鰯などが群れるように点々と連なって空に広がるものをいう。……子どもたちがこの雲を指さして、鰯がとれるしるしだと言うのも、また面白い。(あいだに天明ごろの狂歌「芝浦の漁人も網を打忘れ月には厭ふいわし雲かな」を引く)

「鰯雲といふは、鰯などの群るゝ如く點々相連りて空に瀰るものを云ふなり」。鰯などが群れるように点々と連なって、空いっぱいに広がる雲で、ここで初めて雲の形が鰯の群れにたとえられます。露伴はこのあと、さきの芝浦の狂歌を「天明頃の人の咏」として「芝浦の漁人も網を打忘れ月には厭ふいわし雲かな」と引いていて、「鰯くも哉」が仮名書きの雲かなになるなど表記は少しずつ違いますが、同じ一首です。そのうえでさらに「童兒などは、此雲を指さして、鰯の取るゝ兆なりといふもまたをかし」と書き添えていて、子どもたちがこの雲を指さして、鰯がとれるしるしだと言うのもおもしろい、というのですから、江戸の季語の本にあった鰯が多い時季の雲という説明は、露伴のころには子どもたちの言い方として残っていたようです。

『万載狂歌集』の「鰯くも哉」と『讕言』の「鰯などの群るゝ如く」を大きく切り出して並べたもの
右がコマ145の『万載狂歌集』の「鰯くも哉」(PID:977943)、左が『讕言』コマ21の「鰯などの群るゝ如く」(PID:889311)。二冊から切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(NDL PID:977943 コマ145/NDL PID:889311 コマ21・著作権保護期間満了)

昭和の気象の本では「巻積雲」

昭和9年(1934年)に海洋気象台が出した『海洋気象観測法』第四版は、第四章「雲量と雲形」で雲の種類を説明し、巻末の写真版と見比べられるようにしてあります。写真版の「第四圖 巻積雲(Ci.-Cu.又ハCK)」では、白黒写真の中ほどに小さな白い雲のかたまりが帯になって斜めに並び、その下の説明は「左側中央ヨリ下部ノ層狀ノ白キ雲ハ巻層雲ナリ」と、写り込んだ別の雲まで断っています。

『海洋気象観測法』写真版の「第四圖 巻積雲」。白い小さな雲のかたまりが斜めに帯になって並ぶ白黒写真
写真版「第四圖 巻積雲(Ci.-Cu.又ハCK)」。中ほどに小さな白い雲のかたまりが帯になって並ぶ。下の説明は「左側中央ヨリ下部ノ層狀ノ白キ雲ハ巻層雲ナリ」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(海洋気象台 編『海洋気象観測法』第四版・海洋気象台・昭和9年・NDL PID:1145188 コマ53・著作権保護期間満了)

本文では、この写真の雲をこう説明しています。

『海洋気象観測法』コマ24の「巻積雲(寫眞版第四圖)は、白雲の小團塊が群集して…之を鰯雲とも鯖雲とも又鯖空(Mackerel sky)」の列と翻刻
「巻積雲(寫眞版第四圖)は、白雲の小團塊が群集して青空に浮んで居るので、時には漣波の狀をして顯はれることがある、之を鰯雲とも鯖雲とも又鯖空(Mackerel sky)……」。文は次のページへ続く。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(海洋気象台 編『海洋気象観測法』第四版・昭和9年・NDL PID:1145188 コマ24・著作権保護期間満了)
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巻積雲(寫眞版第四圖)は、白雲の小團塊が群集して青空に浮んで居るので、時には漣波の狀をして顯はれることがある、之を鰯雲とも鯖雲とも又鯖空(Mackerel sky)……

現代語訳

巻積雲は、白い雲の小さなかたまりが群れ集まって青空に浮かんでいるもので、ときにはさざ波の形で現れる。これを鰯雲とも鯖雲とも、また鯖空(Mackerel sky)とも(いう)。

「之を鰯雲とも鯖雲とも又鯖空(Mackerel sky)」。白い雲の小さなかたまりが群れ集まり、ときにはさざ波の形になる雲は、気象の名前では巻積雲(けんせきうん)で、鰯雲はその呼び名の一つです。英語の「Mackerel sky」はサバの空で、日本でも「鯖雲」と呼ぶことが、ここに並べて書かれています。同じ年に三省堂が出した『学習百科辞典』は、雲の種類を並べたところで、巻積雲の呼び名に「うろこ雲」も加えていました。

『学習百科辞典』コマ435の「巻積雲―白い雲の小片が群り浮かぶもの。「うろこ雲」「いわし雲」「鯖雲」など」の列と翻刻
「⑤巻積雲―白い雲の小片が群り浮かぶもの。「うろこ雲」「いわし雲」「鯖雲」など、地方によって種々に呼ばれ……」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(三省堂百科辞書編輯部 編『学習百科辞典』・三省堂・昭和9年・NDL PID:1238391 コマ435・著作権保護期間満了)
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翻刻

⑤巻積雲―白い雲の小片が群り浮かぶもの。「うろこ雲」「いわし雲」「鯖雲」など、地方によって種々に呼ばれ……

現代語訳

巻積雲は、白い雲の小さなかけらが群れて浮かぶもの。「うろこ雲」「いわし雲」「鯖雲」など、地方によっていろいろに呼ばれる。

「「うろこ雲」「いわし雲」「鯖雲」など、地方によって種々に呼ばれ」とあって、この辞典では、いわし雲とうろこ雲は同じ巻積雲の、土地ごとの呼び名として並んでいます。鰯の群れ、魚のうろこ、鯖の背の模様と、同じ雲をそれぞれの魚にたとえていたことになります。

夕焼けから、群れの形へ

1783年の『万載狂歌集』では、鰯雲は「月にはいとふ鰯くも哉」と詠まれた、月を隠す秋の雲でした。1804〜1808年の『月令博物筌』では「西の雲暮に赤きをいふ此とき鰯多し」と鰯が多い時季の夕焼け雲になり、明治18年版の『栞草』では「秋天鰯先よらんとする時、一片の白雲あり、その雲段々として波の如し」と鰯が寄ってくる時の波のような白い雲、1901年の露伴『讕言』で「鰯などの群るゝ如く點々相連りて空に瀰るもの」と鰯の群れのような雲になって、1934年の『海洋気象観測法』と『学習百科辞典』では巻積雲の呼び名として、鰯雲・鯖雲・うろこ雲が並びます。

由来の説明は二通り残っていて、江戸の季語の本は、鰯がたくさん獲れる時季、あるいは鰯が寄ってくる時に出る雲だと書き、明治の露伴は、鰯の群れのように見える雲だと書きました。雲の形そのものを鰯の群れにたとえた説明は、見つかった範囲では露伴が早い例ですが、くずし字の本の機械読み取りは精度が低いので、『万載狂歌集』より古い例が無いとまでは言えません。

鰯の名がつく言葉はほかにも、鰯の頭も信心からや鯛の尾より鰯の頭で読んでいます。ほかの魚のことばは魚のことばの一覧へ。

この記事でわかったこと

  • 白い小さな雲のかたまりが群れになって空に広がる雲で、気象の名前では巻積雲です。

    昭和9年の『海洋気象観測法』は、巻積雲を「白雲の小團塊が群集して青空に浮んで居る」雲とし、「之を鰯雲とも鯖雲とも又鯖空(Mackerel sky)」と書いています(NDL PID:1145188 コマ24)。

  • 二通りの説明が残っています。

    江戸の季語の本『増補俳諧歳時記栞草』は、秋に鰯が寄ってこようとするときに出る「一片の白雲」で「段々として波の如し」と説明しています(明治18年版・NDL PID:875329 コマ6)。明治34年の幸田露伴『讕言』は「鰯などの群るゝ如く點々相連りて空に瀰るもの」と、鰯の群れに見える形から説明し、子どもが「鰯の取るゝ兆」と言うことも書き留めています(NDL PID:889311 コマ21)。

  • 秋の季語です。

    江戸の季語の本『月令博物筌』に「鰯雲 秋」とあり、例句「山いくつ七ッ目鏡にいわし雲」が挙がっています(明治27年の活字版『改正月令博物筌』秋之部・NDL PID:874901 コマ119)。ただしこの本の説明は「西の雲暮に赤きをいふ此とき鰯多し」で、夕焼けの赤い雲を指していました。

  • 昭和9年の三省堂『学習百科辞典』は、巻積雲について「「うろこ雲」「いわし雲」「鯖雲」など、地方によって種々に呼ばれ」と書いており、同じ雲の別の呼び名として並べています(NDL PID:1238391 コマ435)。

この記事で開いた原本

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