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魚と貝

数の子の意味と由来 おせちに入れる理由は江戸の本に書いてある

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この記事の目次

天明3年(1783年)の歳時記『華実年浪草(かじつとしなみぐさ)』の「数子」の項に、正月と婚礼に数の子を使うのは「取多子之義」、子が多いという意味を取ったのだ、と書いてあります。おせちの重箱にかならず入っている数の子は、正月に食べる意味が「子孫繁栄」、名前の由来が「ニシンの子」だと言われ、農林水産省のサイトも、数の子のいわれを「一腹にたくさん卵があるところから,子孫繁栄」と説明しています。その説明は、江戸の本の上ではもう240年あまり前からほとんど同じ形で書かれていて、名前の由来のほうも、さらに古い元禄ごろの本までさかのぼれました。

江戸時代の彩色図譜に描かれたニシン。左上に橙色の卵巣が別に描かれている
毛利梅園が写生したニシン。左上の橙色のものが卵巣、つまり数の子。年記は「天保十亥年十一月」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚譜』・毛利梅園・NDL PID:1286914 コマ56・著作権保護期間満了)

冒頭の図は、毛利梅園が写生したニシンで、左上の橙色のものが卵巣、つまり数の子です。江戸の本が書き残した干し数の子の戻し方も、あわせて読んでいきます。

江戸の歳時記の「数子」

正月の食べもののことなら、季節のことばを月ごとに並べて一つずつ由来を説明した、江戸の歳時記が手がかりになります。『華実年浪草』の巻頭の目録を見ると、「田作」「小殿原」「押鮎」と並んで「数子」があり、「廿三丁」と丁数が添えてあったので、その丁、コマ43を開きました。

『華実年浪草』コマ43の見開き。右ページの中ほどに大きく「数子」の見出しが見える
『華実年浪草』の見開き。右ページの左寄りに、大きな字で「数子」の見出し。その左に「蓜煎賣」、右ページの右には「押鮎」の見出しがある。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『華実年浪草』12巻のうち第1冊・鵜川麁文・天明3年・NDL PID:2556900 コマ43・著作権保護期間満了)

正月に飾るもの、食べるものが見出しになってずらりと並び、その中ほどに大きな字で「数子」の見出しが立っています。

「取多子之義」、子が多いという意味を取った

『華実年浪草』コマ43の「数子」の項と翻刻
右の列の下から「数子 同書ニ云 鯡之子也 割」、左へ「腹出鯑乾之 黄白色為上 臘月歳始及婚家以為」「規祝之肴 取多子之義 同以蝦取海老之義矣」。右の列の上半分は前の項の文。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『華実年浪草』第1冊・鵜川麁文・天明3年・NDL PID:2556900 コマ43・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

数子 同書ニ云、鯡之子也。割腹出鯑乾之、黄白色為上。臘月歳始及婚家、以為規祝之肴。取多子之義、同以蝦取海老之義矣。

現代語訳

数子(かずのこ)。同じ本(和漢三才図会)にいう。ニシンの子である。腹を割いて卵を出し、干す。黄白色のものを上等とする。十二月、年の始め、それに婚礼の家で、祝いの肴とする。子が多いという意味を取ったもので、エビから「海老」(海の老人)の意味を取るのと同じである。

項は「鯡之子也」、ニシンの子である、と書き出し、「割腹出鯑乾之 黄白色為上」、腹を割いて卵を出して干し、黄白色のものが上等だ、と続けます。そのあとの「臘月歳始及婚家以為規祝之肴」は、十二月と年の始め、それに婚礼の家で、祝いの肴にするという意味で、その理由として書かれているのが冒頭の一句です。

『華実年浪草』コマ43の見出し「数子」と「取多子之」の大写し
右が見出しの「数子」、左が本文の「取多子之(義)」。二か所を切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『華実年浪草』第1冊・NDL PID:2556900 コマ43・著作権保護期間満了)

「取多子之義」。いまの「子孫繁栄」と同じ説明が、240年あまり前の歳時記にもうあったことになります。

続きもおもしろく、「同以蝦取海老之義矣」、エビから「海老」、つまり海の老人という意味を取るのと同じだ、と書いています。数の子は子だくさん、エビは長生きと、おせちの縁起かつぎを二つ並べて説明しているわけです。

もとの文は『和漢三才図会』にあった

『華実年浪草』はこの説明を「同書ニ云」と書き出していて、同じ本にいう、という書き出しの同じ本とは、ひとつ前の項で引いていた『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』のことです。寺島良安(てらじま・りょうあん)がまとめた江戸の絵入り百科事典で、ニシンは巻四十九「江海有鱗魚」のコマ37にいます。

『和漢三才図会』巻四十九コマ37の右ページ。上にニシンの絵、下に見出し「鯡」、左に「數子」の項
『和漢三才図会』の「鯡」のページ。右上にニシンの絵、その下に見出し。左端から三列目のいちばん上に、一段高く「數子」とある。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ37・著作権保護期間満了)
『和漢三才図会』のニシンの絵と見出し「鯡」。振り仮名は「かど」「にしん」
ニシンの絵と見出し「鯡」。右に振り仮名「かど」「にしん」、下に「俗云爾之牟 或云加登」。世間では「にしん」といい、「かど」ともいう。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・NDL PID:2596381 コマ37・著作権保護期間満了)

見出しの振り仮名は「かど」と「にしん」の二つで、この「かど」が、あとで名前の話に効いてきます。

『和漢三才図会』コマ37の「數子」の項と翻刻。見開きの右ページ末の三列と左ページ頭の三列
「數子(カズノコ) 鯡之子也 割腹出鯑乾之 黄白色為上/臘月歳始及婚家以為規祝之肴 取多子之義 同以鰕/取海老之義矣 …… 凡用時浸/水四五日換水 能洗浄沙垢軟熟 ……/合浸醤油食 味脆甘美 未知其法者 炙不柔 煮之倍硬/浸醋苦澀 無奈之何」(……は読み切れなかった字と割注)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・NDL PID:2596381 コマ37・著作権保護期間満了)
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翻刻

數子(カズノコ) 鯡之子也。割腹出鯑乾之、黄白色為上。臘月歳始及婚家、以為規祝之肴。取多子之義、同以鰕取海老之義矣。温暑至則出……臭氣、不堪食。凡用時浸水四五日、換水、能洗浄沙垢、軟熟。……合浸醤油食、味脆甘美。未知其法者、炙不柔、煮之倍硬、浸醋苦澀、無奈之何。

現代語訳

数の子はニシンの子である。腹を割いて卵を出し、干す。黄白色のものを上等とする。十二月、年の始め、婚礼の家で、祝いの肴とする。子が多いという意味を取ったもので、エビから「海老」の意味を取るのと同じである。暑くなると臭いが出て食べられない。使うときは水に四、五日浸し、水を換え、砂や垢をよく洗い落とせば、やわらかくなる。醤油に浸して食べると、歯切れがよく甘くてうまい。やり方を知らない者は、焼いてもやわらかくならず、煮ればいっそう硬くなり、酢に浸せば苦く渋い。どうしようもない。

「臘月歳始及婚家以為規祝之肴 取多子之義」と、『華実年浪草』が写したとおりの文がここにあります。

『和漢三才図会』コマ37の見出し「數子」と「取多子之義」の大写し
右が見出しの「數子」(振り仮名「カズノコ」)、左が本文の「(肴)取多子之義」。二か所を切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・NDL PID:2596381 コマ37・著作権保護期間満了)

正月と婚礼に数の子を使うのは子が多いことにあやかるためだと、江戸の百科事典が書き、歳時記がそれを引き写していた、という順番が見えてきます。見出しの「數子」に「カズノコ」と振り仮名をつけたこの百科事典の一項が、正月の歳時記の説明のもとになっていたのです。

「水四五日」、江戸の数の子の戻し方

良安は意味のあとに食べ方まで書いていて、江戸の数の子が干したものだったことがよく分かります。「凡用時浸水四五日換水 能洗浄沙垢軟熟」、使うときは水に四、五日浸して水を換え、砂や垢をよく洗い落とせばやわらかくなる。「合浸醤油食 味脆甘美」、醤油に浸して食べると歯切れがよく、甘くてうまい。

そして、やり方を知らない人への一言が「未知其法者 炙不柔 煮之倍硬 浸醋苦澀 無奈之何」です。焼いてもやわらかくならず、煮ればいっそう硬くなり、酢に浸せば苦くて渋くなって、どうしようもない、と。四、五日前から水に浸けておくという、年の瀬の台所の段取りが、そのまま書いてあります。

「かずのこ」は「かどのこ」

名前のほうは、元禄ごろの食べものの本『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』が手がかりになります。ニシンの項の見出しは「鰊」で、読みは「加登(かど)」と立ててあり、著者の人見必大(ひとみ・ひつだい)にとって、この魚の名前はまず「かど」でした。

『本朝食鑑』巻八の見出し「鰊」と割注「德紅切」「訓加登」、釈名「二親魚」の大写し
右が見出しの「鰊」と、その下の割注(右の列が「德紅切」、左の列が「訓加登」)。左がその隣の列の「釋名 二親魚」。同じコマの2か所を切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻八・人見必大・NDL PID:2557333 コマ179・著作権保護期間満了)

必大は、名前の説明のなかで次のように書いています。

『本朝食鑑』巻八「鰊」釈名の、カドノコとカズノコについて記した列と翻刻
「(鰊鯑ハ)卽數子也 鯑字未詳 加登乃古 加豆乃古 同一物也 以登豆二訓相通 而誤以鰊子爲數子歟 暫從世稱用數子字爾」
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻八・人見必大・NDL PID:2557333 コマ180・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

(鰊鯑ハ)卽數子也、鯑字未詳、加登乃古、加豆乃古、同一物也、以登豆二訓相通、而誤以鰊子爲數子歟、暫從世稱用數子字爾

現代語訳

「鰊鯑」とはすなわち数子(かずのこ)のことである。「鯑」の字の出どころは分からない。カドノコとカズノコは同じものだ。「ト」と「ヅ」の二つの訓が通じるので、誤ってカドの子(鰊子)をカズノコとしたのだろうか。しばらくは世間の呼び方に従って「数子」の字を用いておく。

「加登乃古 加豆乃古 同一物也」、かどのこもかずのこも同じものだと言い、「以登豆二訓相通 而誤以鰊子爲數子歟」、「と」と「づ」の音が通じるので、誤って「かどの子」を「数の子」としたのだろうか、と続けています。魚の名前が「かど」で、その子だから「かどのこ」、それがなまって「かずのこ」になり、「数」の字があてられた、という見立てですが、「歟」と結んでいるので、必大も言い切ってはいません。

必大はもう一つ、「二親魚(にしん)」という書き方についても推していて、「二親者父母也」、二親とは父母のことで、人に子が多いのは父母によるのだから、数の子の多いこの魚をそう呼ぶのだろうか、と書いています(コマ180)。名前の話のなかにまで、子の多さが顔を出しているのです。その必大も、正月の数の子の意味を書いていました。

『本朝食鑑』巻八コマ180の、正月の数の子の意味と戻し方を書いた七列と翻刻
「……于今本/朝流俗 歳首家家以數子為規祝之一具 而取子/孫繁多之義 此亦田作海老懸鯛乾鰯之類乎 凡/用數子法 臘月取乾數子數枚 漬水洗去塵沙 而/涵之四五日或六七日……則軟熟 其水經宿/生腥臭之氣 則以新汲水易之 然後待其濡熟而/用之 調醬汁及煎酒尤佳 或漬未醤酒糟等亦可」(……は読み切れなかった字)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻八・人見必大・NDL PID:2557333 コマ180・著作権保護期間満了)
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翻刻

諸國、至臘月正月、市中多……之。餘月全無。于今本朝流俗、歳首家家以數子為規祝之一具、而取子孫繁多之義。此亦田作、海老、懸鯛、乾鰯之類乎。凡用數子法、臘月取乾數子數枚、漬水洗去塵沙、而涵之四五日、或六七日、……則軟熟。其水經宿生腥臭之氣、則以新汲水易之。然後待其濡熟而用之。調醬汁及煎酒尤佳。或漬未醤酒糟等亦可。

現代語訳

十二月と正月には町にたくさん出回るが、ほかの月にはまったくない。いまこの国の世間の習わしでは、年の始めに家ごとに数の子を祝いの品のひとつにする。子孫が多いという意味を取ったものである。これもまた、田作り、海老、懸鯛、干し鰯のたぐいだろうか。数の子を使うには、十二月に干し数の子を数枚取り、水に漬けて塵や砂を洗い落とし、四、五日か六、七日浸しておくと、やわらかくなる。水は一晩たつと生臭くなるので、汲みたての水に換える。そうして十分にやわらかくなってから使う。醤油の汁や煎り酒で調えるのがいちばんよい。味噌や酒かすに漬けてもよい。

「歳首家家以數子為規祝之一具 而取子孫繁多之義」、年の始めに家ごとに数の子を祝いの品の一つにするのは、子孫が多いという意味を取ったものだ、という一文に、「此亦田作海老懸鯛乾鰯之類乎」、これもまた田作りや海老、懸鯛と同じたぐいだろうか、と添えてあり、数の子と田作りと海老が、正月の縁起ものとして一列に並んでいます。

戻し方は良安より細かく、水に「四五日或六七日」浸け、水は一晩おくと生臭くなるので汲みたての水に換え、「調醬汁及煎酒尤佳」、醤油の汁や煎り酒で調えるのがいちばんよい、と書いています。

梅園は「子孫繁榮ノ義ヲトル」と書いた

冒頭の絵に戻ると、毛利梅園は天保10年(1839年)、ニシンの絵の左上に卵巣を別に描いていました。

『梅園魚譜』コマ56の左上。橙色の卵巣の絵と、その左下の書き入れ
橙色の卵巣。左下の書き入れは「此青魚ノ腹中ニ孕 者青魚(カド)ノ之鯑(コ)」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚譜』・毛利梅園・NDL PID:1286914 コマ56・著作権保護期間満了)

絵のまわりの長い書き入れを読んでいくと、数の子の話が出てきます。

『梅園魚譜』コマ56の書き入れのうち、数の子について書いた三列と翻刻
「……其子カヅノ子ト云 一/胞細卵數ナシ 風乾(スボシ)メ四方ニ出ス 用テ歳旦及嫁娶ノ/祝具トス 子孫繁榮ノ義ヲトル 又青魚(カド)ノ子ノ轉……」
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚譜』・毛利梅園・NDL PID:1286914 コマ56・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

……其子カヅノ子ト云 一胞細卵數ナシ 風乾(スボシ)メ四方ニ出ス 用テ歳旦及嫁娶ノ祝具トス 子孫繁榮ノ義ヲトル 又青魚(カド)ノ子ノ轉……

現代語訳

その子を「かづのこ」という。ひと腹に細かい卵が数えきれないほどある。素干しにして各地へ出す。元日と婚礼の祝いの品に使う。子孫繁栄の意味を取ったものである。また「カドの子」が転じた……

「一胞細卵數ナシ」、ひと腹に細かい卵が数えきれない。「風乾メ四方ニ出ス」、素干しにして各地へ出す。「用テ歳旦及嫁娶ノ祝具トス」、元日と婚礼の祝いの品に使う、と続いたあとに、いまの言い方とそっくりな一句があります。

『梅園魚譜』コマ56の書き入れ「子孫繁榮ノ義ヲ」の大写し
「(祝具ト)ス 子孫繁榮ノ義ヲト(ル)」の一列を切り出した。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚譜』・毛利梅園・NDL PID:1286914 コマ56・著作権保護期間満了)

「子孫繁榮ノ義ヲトル」。いま使われている「子孫繁栄」の四文字がそのまま書いてあって、『和漢三才図会』の「取多子之義」を、梅園は自分の言葉で言い直したことになります。梅園は続けて「又青魚ノ子ノ轉」と書き、青魚の振り仮名は「カド」ですから、「かどの子」が転じたものという名前の由来も、同じ紙の上に書きとめていたわけです。

「かずの子は天下一同に用ひて」

数の子がどれほど広まっていたかは、松前(北海道)のニシン漁を書いた『蝦夷行記』の一節から分かります。明治の資料集『古事類苑』が引いているものです。

『古事類苑』に引かれた『蝦夷行記』の、干鯡と数の子の用途について記した2列と翻刻
「……さればこそ此干鯡をこやしに用ゆる國々は、南部津輕出羽北國近江へかけて是を用ひ、かずの子は天下一同に用ひて、すくなしとせず……」
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『古事類苑』動物部十七・NDL PID:1874269 コマ737・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

獵成べし、さればこそ此干鯡をこやしに用ゆる國々は、南部津輕出羽北國近江へかけて是を用ひ、かずの子は天下一同に用ひて、すくなしとせず、此魚年來敢而不獵と云事なく、其とる時分に

現代語訳

だからこそ、この干しニシンを肥やしに使う国々は、南部・津軽・出羽から北国、近江にまで及んでこれを用いている。数の子は天下じゅうで用いられ、少ないということがない。この魚は年来、獲れないということがまったくなく、その獲れる時期には——

「かずの子は天下一同に用ひて、すくなしとせず」、数の子は天下じゅうで使われ、少ないということがない、という書きぶりで、身のほうは干して肥やしになり、子のほうは日本じゅうの祝いの席へ届いていました。松前でニシンが年貢の代わりだった話は、松前でニシンは年貢だったの記事で読んでいます。

元禄の本までさかのぼる説明

名前の由来は「かどの子」で、おせちに入れる意味は子孫繁栄。どちらも江戸の本にそのまま書いてあって、いま言われている説明は、少なくとも元禄のころの『本朝食鑑』までさかのぼれます。必大が「かどのこ」と「かずのこ」は同じものとし、良安が子が多いという意味を取ると書いて戻し方まで添え、天明3年の歳時記がその文を正月の「数子」の項にそのまま引き、天保10年の梅園が子孫繁栄の四文字で言い直した、という流れです。

同じ正月の祝い肴、田作りの正体は「ごまめの歯ぎしり」の意味と由来の記事で読んでいます。ブリが正月の魚になったわけは出世魚の一覧と順番へ。

この記事でわかったこと

  • 子孫繁栄です。

    江戸の百科事典『和漢三才図会』は「臘月歳始及婚家以為規祝之肴 取多子之義」、正月と婚礼の祝いの肴にするのは子が多いという意味を取ったもの、と書いています(NDL PID:2596381 コマ37)。毛利梅園も天保10年に「子孫繁榮ノ義ヲトル」と書き入れています(NDL PID:1286914 コマ56)。

  • ニシンの古い名「かど」の子、「かどのこ」がなまったものとされます。

    『本朝食鑑』は「加登乃古 加豆乃古 同一物也」、「と」と「づ」の音が通じるので誤って「数の子」としたのだろうか、と書いています(NDL PID:2557333 コマ180)。

  • ニシンの卵です。

    天明3年の歳時記『華実年浪草』は「数子」の項を「鯡之子也」と書き出しています(NDL PID:2556900 コマ43)。

  • 干した数の子を水で戻していました。

    『和漢三才図会』は「凡用時浸水四五日換水」、使うときは水に四、五日浸して水を換える、醤油に浸して食べるとうまい、と書いています(NDL PID:2596381 コマ37)。

この記事で開いた原本

どれも国立国会図書館デジタルコレクションで、無料・登録なしで読めます。コマ番号から該当ページが開きます。

ほかの記事で使った本もあわせて見るなら記事で開いた原本の一覧へ。

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