魚へんに付の読み方はフナ|鮒の漢字の由来は「くっつく」から
この字、読めますか?
鮒
- 訓
- ふな
- 音
- フ・ブ
- 画数
- 16画
この記事の目次
毛利梅園が金鮒と黒鮒を描いた図の右上には、魚へんに「附」、魚へんに「府」と、フナの字がずらりと書き並べてあります。いまフナを漢字で書くなら魚へんに「付」の「鮒」一字ですが、その由来を江戸の学者が開いた中国の本草書でたどると、付はくっつく、付き添うの付で、フナが連れだって泳ぎ、互いにくっつき合うからだと説明されていました。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻一・毛利梅園・天保6年序・NDL PID:1287112 コマ36・著作権保護期間満了)
「鮒」の基本データ
- 読み
- ふな(訓)/フ・ブ(音)
- 画数
- 16画(魚へん11画+右側5画)
- 形
- 魚へんに「付」
- 由来
- 『本草綱目』は「以相附也、故謂之鮒」。連れだって泳ぎ、互いにくっつくから
- 別の字
- 「鯽」。『和漢三才図会』は鯽を含む三字を「三字通用」とした
- 難易度
- 中級
読みと画数は Unicode の Unihan Database(U+9B92)による
『本草綱目』の見出しは「鯽魚」
江戸の学者がまず開いたのは、中国・明の李時珍(りじちん)がまとめた薬の百科事典『本草綱目(ほんぞうこうもく)』で、ここでは承応2年(1653年)に日本で彫り直された和刻本の、巻四十四のコマ68を開いています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四 鱗部・李時珍撰・承応2年刊・NDL PID:2556596 コマ68・著作権保護期間満了)
フナの項の見出しは「鮒」ではなく「鯽魚(せきぎょ)」で、「鮒」のほうは、名前を説く「釈名」の欄にもう一つの名前として出てきます。
連れだって泳ぎ、くっつくから「鮒」
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四 鱗部・李時珍撰・承応2年刊・NDL PID:2556596 コマ68・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む
翻刻
鯽魚 別録上品釋名 鮒魚(音附) 時珍、按陸佃埤雅云、鯽魚旅行、以相即也、故謂之鯽。以相附也、故謂之鮒。
現代語訳
鯽魚。【名前】鮒魚(音は附)ともいう。李時珍が考えるに、陸佃の『埤雅』によれば、鯽魚は連れだって泳ぐ。互いに寄り添う(即く)から鯽という。互いにくっつく(附く)から鮒という。
李時珍は陸佃(りくでん)の『埤雅(ひが)』を引いていて、枠で囲んだ「時珍」のあとに「按(あん)ずるに」、わたしが考えるに、と続けています。まず「鯽魚旅行」、鯽魚は連れだって泳ぐ。そのうえで「以相即也、故謂之鯽」、互いに寄り添う(即く)から鯽といい、「以相附也、故謂之鮒」、互いにくっつく(附く)から鮒という、と二つの字を並べて説明していました。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四 鱗部・李時珍撰・承応2年刊・NDL PID:2556596 コマ68・著作権保護期間満了)
群れをなして互いにくっつき合うように泳ぐ姿から、「即(そく)」でも「附(ふ)」でも名前がついた、という理屈です。見比べると字の形が少しずつ違っていて、見出しの別名は魚へんに「付」の「鮒」、説明の文の「附く」はこざとへんのついた「附」、そして鮒の音の注も「附」なので、名前の字と、名前を説明する言葉とが、同じ音でつながっていることになります。
「吹沫如星而相附」と書いた寺島良安
寺島良安(てらじま・りょうあん)の絵入り百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』は、巻四十八「河湖有鱗魚」(川と湖のうろこのある魚)で、鯉の次に鮒を置いています。コマ6です。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十八・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ6・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十八・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ6・著作権保護期間満了)
良安の見出しは中国の本と違って「鮒」で、読みは「ふな」、音は「附」です。わきには「鯽」を含む三つの字を並べ、「三字通用」、どれも同じように使う、と書き添えています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十八・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ6・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む
翻刻
本綱、鮒狀似小鯉、而色黒而體促、肚大而脊隆。其旅行則吹沫如星、而相附。故曰鮒、曰鯽。喜偎泥、不食雜物。故能補胃。冬月肉厚子多、其味最美。
現代語訳
『本草綱目』にいう。鮒の姿は小さな鯉に似て、色は黒く、体は詰まって、腹が大きく背が盛り上がる。連れだって泳ぐときは、星のように泡を吹いて、互いにくっつく。だから鮒といい、鯽という。泥にもぐるのを好み、雑多なものは食べない。だから胃を補う。冬は肉が厚く卵が多く、味がいちばんよい。
「鮒狀似小鯉」、鮒の姿は小さな鯉に似て、色は黒く、腹が大きく背が盛り上がる、と姿を述べたあと、名前の由来は「其旅行則吹沫如星、而相附。故曰鮒、曰鯽」。連れだって泳ぐときは星のように泡を吹いて互いにくっつくので、鮒といい、鯽という――。
『本草綱目』の釈名にはなかった「吹沫如星」、星のように泡を吹くという情景が加わっています。良安はさらに「冬月肉厚子多、其味最美」、冬は身が厚く卵が多く、味がいちばんよい、とも書いていました。
梅園の見出しにずらりと並ぶ「フナの字」
冒頭の梅園の絵に戻ると、右上の書き入れの見出しは『本草綱目』と同じ「鯽魚」で、読みは「フナ」「マフナ」、続けて「釋名 鮒(音附)」とあります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻一・毛利梅園・天保6年序・NDL PID:1287112 コマ36・著作権保護期間満了)
梅園も『本草綱目』と同じく、鮒を見出しの別名として扱っていたわけです。その左には別の本から集めた別名と魚へんの字の列が続き、列の下のほうに魚へんに「附」の字と、魚へんに「府」の字が並んでいます。右側が「付」でなくても、音が同じ字ならフナの字として集めていたことになり、列の最後には「皆共上同」、どれもみな上と同じ、と書き添えてあります。
江戸の学者にとって、フナの字は一つではありませんでした。中国の本の見出しは鯽、日本の百科事典の見出しは鮒、梅園の写生帖には魚へんに附や府まで並んでいて、今の私たちが使う「鮒」は、そのなかから残った一字です。その右側の付は、『本草綱目』が言う「互いにくっつく(附く)」と同じ音の字として、群れて泳ぐフナの姿を名前に残しています。
鮒
- 読みは「ふな」。魚へんに付、16画
- 『本草綱目』は「以相附也、故謂之鮒」。互いにくっつくから鮒
- 『本草綱目』の見出しは「鯽魚」で、鮒魚は別名
- 『和漢三才図会』は鯽を含む三字を「三字通用」とした
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この記事でわかったこと
『本草綱目』は陸佃『埤雅』を引いて「鯽魚旅行、以相即也、故謂之鯽。
以相附也、故謂之鮒」、フナは連れだって泳ぎ、互いにくっつく(附く)ので鮒という、と書いています(承応2年刊本・NDL PID:2556596 コマ68)。
江戸の本ではどちらもフナの字です。
『本草綱目』の見出しは「鯽魚」で「鮒魚」は別名(NDL PID:2556596 コマ68)、寺島良安『和漢三才図会』の見出しは「鮒」で、わきに鯽を含む三字を並べ「三字通用」としています(NDL PID:2596381 コマ6)。
『和漢三才図会』は『本草綱目』を引いて「冬月肉厚子多、其味最美」、冬は身が厚く卵が多く、味がいちばんよいと書いています(NDL PID:2596381 コマ6)。
この記事で開いた原本
どれも国立国会図書館デジタルコレクションで、無料・登録なしで読めます。コマ番号から該当ページが開きます。
- 梅園魚品図正.巻1
毛氏梅園元寿<毛利梅園>//撰輯 天保6(1835)序
- 本草綱目卷1-17,19-52,瀕湖脈學1卷奇經八脈攷1卷脈訣攷證1卷.[30]
明李時珍撰 承應2
- 和漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻.[34]
寺島良安尚順 編 [江戸時代]
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