魚へんに易の読み方は?鯣でスルメ|江戸の本は「鯗」と書いた
この字、読めますか?
鯣
- 訓
- するめ
- 音
- エキ
- 画数
- 19画
この記事の目次
魚へんに易と書く「鯣」は、イカを開いて干したスルメのことで、魚ではないのに魚へんの字で書きます。ところが江戸の百科事典でスルメの項を開くと、この字は出てこず、干し魚をあらわす別の魚へんの字に「スルメ」と振り仮名がついていました。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻1・毛利梅園筆・NDL PID:1287112 コマ34・著作権保護期間満了)
「鯣」の基本データ
- 読み
- するめ(訓)、エキ(音)
- 画数
- 19画(魚へん11画+右側8画)
- 形
- 魚へんに「易」
- 使い方
- スルメ。「鯣烏賊」でスルメイカ
- 江戸の百科事典は
- 『和漢三才図会』はスルメに「鯗」の字を使い、振り仮名を「スルメ」とする
- 明治・大正の本は
- 『言海』の見出しの漢字は「鯣」。大正の漢字の本は「国訓」に入れる
- 難易度
- 中級
読みと画数は Unicode の Unihan Database(U+9BE3)による
江戸の百科事典はスルメを「鯗」と書いた
寺島良安(てらじま・りょうあん)の絵入り百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』では、巻五十一のコマ30にイカが載っています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻五十一・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596382 コマ30・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻五十一・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596382 コマ30・著作権保護期間満了)
見出しは「柔魚」でスルメイカのこと、下の注には干したものの名前として「明鯗」と「脯鯗」が並び、そばに小さく「鹽乾者」「淡乾者」、塩をして干したもの、うす塩で干したもの、とあります。そして「俗云須留女」、世間ではするめと言う、と続き、左の列の「又云鯗以加」では、鯗の字の右に小さく「スルメ」と振り仮名があって、するめいかと読ませています。良安がスルメに使ったのは魚へんに易ではなく「鯗」で、本文でも同じです。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻五十一・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596382 コマ30・著作権保護期間満了)
「乾之爲鯗、出於肥州五島者、肉厚大味勝」。これを干してスルメにし、肥前の五島から出るものは身が厚く大きく味がまさっている、という一文です。鯗はもともと干した魚をあらわす字で、鱶(魚へんに養)の記事で読んだ『本草綱目』にも「乾者名鯗魚」とありました。良安は干物の字をそのままスルメに当て、仮名で読みを教えていたわけです。
「鯣」は明治の辞書の見出しに立つ
国立国会図書館の次世代デジタルライブラリーで、江戸以前の古典籍に絞って「鯣を」「鯣の」「鯣烏賊」と引いても0冊でした。機械の読み取りは古い版本の字を落とすことがあるので、0冊は無かったという意味ではありませんが、はっきり出てくるのは明治の国語辞書『言海(げんかい)』(明治22〜24年刊)のコマ343です。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『言海』大槻文彦・明治22〜24年・NDL PID:992954 コマ343・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『言海』大槻文彦・明治22〜24年・NDL PID:992954 コマ343・著作権保護期間満了)
見出しの仮名「するめ」の下に四角で囲んだ「鯣」があり、説明は「烏賊ヲ割キ開キテ乾シタルモノ、炙リテ食フ、多ク祝ヒノ肴トス」です。項の終わりには、良安の注にあった「脯鯗」も置かれています。『言海』は見出しのすぐ下に日本でふつうに使う字を、項の終わりに中国の書き方を置く辞書なので、大槻文彦(おおつき・ふみひこ)は、鯣を日本の側の字、脯鯗を中国の側の字として書き分けていたことになります。
大正の漢字の本は「国訓」に入れた
大正6年(1917年)の漢字の手引き、久保天随(くぼ・てんずい)の『誤り易き漢字の読み方と正しき用字法』も開きました。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(久保天随『誤り易き漢字の読み方と正しき用字法』大正6年・NDL PID:955903 コマ47・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(久保天随『誤り易き漢字の読み方と正しき用字法』大正6年・NDL PID:955903 コマ42・47・著作権保護期間満了)
「鯣 するめ、するめ烏賊を割きて乾したるもの」という行があるのは「国字」の章ではなく、その次の「第五 國訓」の章で、章の頭には「漢字に、便宜上、日本の訓を付けて使用するものにして、その本義とは、全然異なり」と説明があります。久保天随は鯣を「日本で作った字」ではなく「日本の読みをつけた漢字」に数えていて、同じ章には鮑(あわび)や鯛、鰆も並び、鯏(あさり)のほうは前の「国字」の章でした。Unicode の Unihan Database も、鯣(U+9BE3)に音の「エキ」と訓の「するめ」の両方を登録しています。鯣が中国の本でもともと何を指したのかは、今回は原本の画像で確かめられなかったので、ここでは久保天随の分類を引くにとどめます。
骨のかわりに、うすい「蝋紙」
スルメにするイカを、良安は「柔魚與烏賊相似、但無骨爾」、柔魚は烏賊によく似ているが骨がないだけだ、と書いています(コマ30)。コウイカのなかまには舟の形をした硬い甲がありますが、スルメイカにはそれがなく、『言海』の「するめいか」の項は「いかのかふ無クシテ、薄キ骨アリ、硝子紙ノ如シ」と、もう少しくわしく書いています。同じ項の「多クするめトスレバ名アリ」のとおり、スルメイカはスルメにするイカという名前でした。江戸のイカの大きさや、役所に届けられた大イカの話はイカの記事で読んでいます。
スルメイカは1kg1,119円
東京都中央卸売市場(豊洲市場など)の令和7年(2025年)の年次統計から、1kgあたりの平均価格を拾いました(東京都中央卸売市場 市場統計情報・年次統計資料、「品目別・月別平均価格」「主要品目別取扱高」)。
月 | するめいか(鮮魚・1kg) |
|---|---|
年間 | 1,119円 |
1月 | 1,426円 |
2月 | 1,595円 |
3月 | 1,417円 |
4月 | 1,512円 |
5月 | 1,376円 |
6月 | 1,030円 |
7月 | 901円 |
8月 | 915円 |
9月 | 887円 |
10月 | 1,151円 |
11月 | 1,351円 |
12月 | 1,340円 |
鮮魚の「するめいか」の年間平均は1kg1,119円で、夏から秋が安く9月が887円、冬から春が高く2月が1,595円でした。干したスルメの値も同じ統計にあって、「干するめ(国内)」の年間平均は1kg5,740円、生のイカの5倍ほどです。
筆者が市場で見てきたこと
筆者が見てきた市場では、スルメイカは近年、入荷が激減しています。不漁で生のスルメイカそのものが少なく、値は一年じゅう高い。呼び名は生のイカでも「スルメ」で、初夏の小さいものは「ムギイカ」、箱は20入、25入というふうに入り数で呼び、選ぶときに見るのは体の色と肝(ワタ)の大きさです。
年次統計の「主要品目別取扱高」では、令和7年の「するめいか」の数量は2,495トン、前の年は1,675トン、平均価格は1,119円で前の年は1,310円でした。この2年だけをくらべると数量が増えて値は下がっていて、筆者の言う「激減」はもっと長い年月をふり返っての実感ですが、表にあるのは前の年との比較だけなので、長い目での減り方はここでは数字で確かめられません。月ごとの値は887円から1,595円で、いちばん安い月でも900円近くしますから、安い魚の値ではありません。体の色と肝を見るという目利きは統計には出てこないので、筆者が売り場で見てきたこととして書いておきます。
江戸は「裂いて食べるとよい」
良安はスルメの食べ方も書いていて、「微炙食」、すこしあぶって食べる、というところに、裂いて食べるとよいという意味の小さな注が添えてあります。「或不炙細刻代膾、皆甘美」、あぶらずに細かく刻んでなますの代わりにもし、どれもうまい、と続きます。『言海』も「炙リテ食フ、多ク祝ヒノ肴トス」なので、江戸から明治まで、スルメの食べ方はほとんど変わっていません。
鯣
- 鯣の訓は「するめ」、音は「エキ」。魚へんに易、19画
- 江戸の『和漢三才図会』の見出しは「柔魚」。スルメには「鯗」の字を使い、「スルメ」と振り仮名をつける
- 良安は「乾之爲鯗、出於肥州五島者、肉厚大味勝」と書いた
- 明治の『言海』は「するめ」の見出しの漢字を「鯣」とし、項の終わりに「脯鯗」を置く
- 大正6年の久保天随は、鯣を「国字」ではなく「国訓」の章に入れた
- 『言海』はスルメイカの名を「多クするめトスレバ名アリ」と説明する
- 東京の市場のスルメイカは1kg1,119円、干するめ(国内)は5,740円(令和7年)
UOMEDIA|uomedia.jp
この記事でわかったこと
「鯣」と書いて、スルメと読みます。
Unicode の Unihan Database(U+9BE3)には、訓の「するめ」と音の「エキ」が登録されています。19画の字です。
「鯣」と書きます。
明治の国語辞書『言海』は「するめ」の見出しの漢字を鯣としています(NDL PID:992954 コマ343)。江戸の『和漢三才図会』は干物の字「鯗」に「スルメ」と振り仮名をつけ、「俗云須留女」とも書いています(NDL PID:2596382 コマ30)。
大正6年(1917年)の久保天随『誤り易き漢字の読み方と正しき用字法』は、鯣を「国字」ではなく「国訓」の章に入れています(NDL PID:955903 コマ47)。
国訓は、同書の説明では「漢字に、便宜上、日本の訓を付けて使用するもの」です。
『言海』は「するめいか」の項で「多クするめトスレバ名アリ」と説明しています(NDL PID:992954 コマ343)。
多くはスルメにするので、その名がある、という意味です。
東京都中央卸売市場の令和7年(2025年)の年次統計では、鮮魚の「するめいか」の年間平均は1kg1,119円でした。
いちばん安い9月が887円、いちばん高い2月が1,595円です。「干するめ(国内)」は1kg5,740円でした。
この記事で開いた原本
どれも国立国会図書館デジタルコレクションで、無料・登録なしで読めます。コマ番号から該当ページが開きます。
- 梅園魚品図正.巻1
毛氏梅園元寿<毛利梅園>//撰輯 天保6(1835)序
- 和漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻.[35]
寺島良安尚順 編 [江戸時代]
- 言海 : 日本辞書.第1-4冊
大槻文彦 編 1889-1891
- 誤り易き漢字の読み方と正しき用字法
久保天随 著 大正6
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