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魚へんの漢字

サヨリの漢字は「鱵」|魚へんに箴、針のくちばしの字

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難易度 上級

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鱵

訓
さより
音
シン
画数
26画
この記事の目次

毛利梅園が描いたサヨリは、細い銀色の体から下あごだけが長く突き出し、その先がほんのり赤く塗られています。サヨリの漢字は、この図の横に大きく書かれた「鱵」で、魚へんに箴(はり)と書き、読みは訓がさより、音がシンです。細魚や針魚と書くこともあり、このうち鱵と針魚は、あの針のような下あごから来た書き方です。

『梅園魚品図正』巻一コマ12の見開き。上に細長いサヨリの彩色図、下に大きなボラの図
上が毛利梅園の描いたサヨリ。下あごが針のように長く、先が赤い。右上に「海魚類」「多識編」とあり、見出しの「鱵魚」の脇に「和名左與利」、続いて異名が二つ並ぶ。下の大きな魚はボラ(鯔魚)。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻一・毛利梅園 撰輯・天保6年序・NDL PID:1287112 コマ12・著作権保護期間満了)

梅園の書き入れは、右から「海魚類」「多識編」、そして見出しの「鱵魚」で、脇に小さく「和名左與利」と添えてあります。異名の欄には姜公魚ともう一つ、銅の字で始まる名が並び、姜の字にはキヤウと振り仮名があります。その左の別の書き入れは、鱵魚のえらに虫がつくことを書いたもので、その虫を「サヨリ虫ト云」と結んでいます。描いた日は、図の下に癸巳の年の三月二日と記されています。

「鱵」の基本データ

読み
さより(訓)・シン(音)
画数
26画(魚へん11画+箴15画)
形
魚へんに「箴」。箴は竹かんむりに咸で、訓は「はり」
ほかの書き方
針魚(『和名類聚抄』)、細魚(明治の『水産俗字集』が挙げる)
中国の本
『本草綱目』は鱵魚とし、くちばしに鍼が一本あるから、と名の由来を書く
難易度
上級

読みと画数は Unicode の Unihan Database(U+9C75 鱵、U+7BB4 箴)による

鱵=魚+箴うおへん箴(はり)
『梅園魚品図正』コマ12の「鱵魚」「和名左與利」と「姜公魚」の大写し
右が見出しの「鱵魚」と、脇の「和名左與利」。左が異名の一つ「姜公魚」で、姜にキヤウの振り仮名。同じ見開きの二か所を切り出して並べた。左端の小さな点は隣の異名の振り仮名の一部。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻一・NDL PID:1287112 コマ12・著作権保護期間満了)

『本草綱目』の鱵魚は「喙有一鍼」

箴は竹かんむりに咸と書く字で、Unihan の訓は「はり」、意味の欄には needle(針)と warn(いましめる)が並んでいます。この字に魚へんをつけた鱵を、明の李時珍は『本草綱目』の魚の部に見出しとして立てました。承応2年(1653年)に日本で刊行された本の巻四十四、コマ77の右ページの左寄りに、見出しの「鱵魚」があり、音は針と同じ「音針」、脇にサヨリの読みが書き込まれています。

『本草綱目』巻四十四コマ77の見開き。右ページ左寄りに見出し「鱵魚」、左ページの右端にその集解
右ページの右半分は前の項目の鱠残魚。その左の列の頭が見出しの「鱵魚」(音針)で、丸囲みの「釋名」「氣味」が続く。左ページの右端の丸囲み「集解」までが鱵魚の項。上の余白に朱と墨の書き入れがある。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四・李時珍・承応2年和刻・NDL PID:2556596 コマ77・著作権保護期間満了)

名前の由来を説く「釋名」には、まず姜公魚の名があり、その下に小さな字で時珍の説明が入ります。「此魚喙有一鍼故有諸名」、この魚はくちばしに一本の鍼があるので、こうした名がある、という一文です。鍼は金へんに咸で、針と同じく「はり」を表す字なので、鱵の右側の箴と、時珍の説明の鍼は、竹かんむりと金へんが違うだけで同じ咸を抱えています。

『本草綱目』コマ77の鱵魚の釋名のうち、時珍の説明の二行を赤枠で囲み、翻刻と現代語訳を並べた画像
赤枠が釋名の小さな字の二行。右に翻刻、下に現代語訳。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四・NDL PID:2556596 コマ77・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

音税 臨海志 時珍曰此魚喙有一鍼故有諸名 俗云

現代語訳

(前の別名の音は税、『臨海志』に出る。)時珍が言う。この魚はくちばしに一本の鍼がある。それでこうした名がある。俗に言う……(次の列の「姜太公釣鍼」に続く)。

続けて時珍は、世間では姜太公の釣り針だと言う、という話も拾っていますが、それはこじつけだと退けています。姜太公は太公望のことで、ページの上の余白にも、姜は呂望のことだという墨の書き入れがあります。

『本草綱目』コマ77の「此魚」と「喙有一鍼」の大写し
右が時珍の説明の「此魚」、左が同じ文の続きの「喙有一鍼」。二つの小さな列から切り出して、読む順に並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四・NDL PID:2556596 コマ77・著作権保護期間満了)

姿を書いた左ページの「集解」は、時珍の言葉として「生江湖中」、江や湖の中にすむと始まり、大きさも形も前の項目の鱠残魚と同じで、ただ「但喙尖有一細黒骨如鍼爲異耳」、くちばしがとがって一本の細く黒い骨が針のようになっているのが違うだけだ、と書きます。名前の由来も、ほかの魚との見分けも、くちばしの一本の針に尽きるという書き方です。

『和名類聚抄』の針魚は「波利乎」

日本の古い辞書には、鱵の字よりも先に「針魚」の書き方が載っています。『和名類聚抄』に狩谷棭斎が注をつけた『箋注倭名類聚抄』(明治16年、印刷局刊)の巻第八、コマ13の右ページに、見出しの「針魚」があります。

『箋注倭名類聚抄』巻第八コマ13の見開き。右ページの中ほどに見出し「針魚」
右ページの右から二つ目の見出しが「針魚」。大きな字が本文、二行に割った小さな字が読みと狩谷棭斎の注。右端の見出しは梳歯魚、左ページは別の魚の項。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『箋注倭名類聚抄』巻第八・狩谷棭斎 著・印刷局 明治16年刊・NDL PID:991791 コマ13・著作権保護期間満了)

本文は「七巻食經云、針魚」と、『七巻食経』という本を引いて始まり、読みとして「波利乎、一云與路豆」、はりを、またはよろづと添えています。続く「口長四寸如針、故以名之」が、口の長さが四寸あって針のようだから、この名がついた、という説明です。棭斎の注には「今俗呼左與利」、いまは世間でさよりと呼ぶ、とあります。

おもしろいのは、注の終わりで棭斎が中国の古い地理書『山海経』の東山経を引いているところです。そこでは魚へんのない箴の字で「多箴魚」、箴魚が多いと書かれ、その魚は「其喙如箴」、くちばしが箴のようだとされています。魚へんに箴の鱵は、もともと箴魚と書かれていた名前に魚へんがついた形だと、この並びを見るとそう読み取れます。

『箋注倭名類聚抄』コマ13の「多箴魚」と「其喙如箴」の大写し
右が東山経を引いた箇所の「多箴魚」、左が隣の列の「其喙如箴」。どちらも魚へんのない箴の字。同じ注の二列から切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『箋注倭名類聚抄』巻第八・NDL PID:991791 コマ13・著作権保護期間満了)

益軒も良安も、目をとめたのは下のくちばし

宝永6年(1709年)の貝原益軒『大和本草』は、巻十三の魚類のコマ37、左ページに「鱵魚」を立て、サヨリと読みを振っています。説明は短く、形は小さく丸く長い、と書いたあとに「上ノクチハシ短ク下ノ喙長シ」と続け、毒はなく病人が食べてもよいと結んでいます。

『大和本草』巻十三コマ37の見開き。左ページの中ほどに見出し「鱵魚」
左ページの中ほどの列の頭が見出しの「鱵魚」で、サヨリの振り仮名。その右の列までは前の項目で、左の列にはスヽという似た魚の話が続く。右ページはイイダコや水母(クラゲ)の項。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『大和本草』巻十三・貝原益軒・宝永6年・NDL PID:2557359 コマ37・著作権保護期間満了)

寺島良安の『和漢三才図会』は、巻四十九の江海有鱗魚の部で見出しを「鱵」の一字にし、さよりと読ませています。別名に姜公魚、針口魚などを並べたあとに和名を二つ、最後に「俗云佐與利」と添え、見出しの上には、下あごの長い細い魚が二匹描かれています。

『和漢三才図会』巻四十九の見開き。右ページに二匹のサヨリの図と見出し「鱵」
右ページの右側が見出しの「鱵」(さより)と別名、その上に下あごの長い魚の図が二匹。左側が『本草綱目』と『三才図会』からの引用と良安の「按」。左ページは別の二つの魚の項。明治18年に中近堂から出た活字本。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』中之巻・寺島良安 編・中近堂 明治18年刊・NDL PID:898161 コマ197・著作権保護期間満了)

良安は時珍の文を引いたうえで、自分の考えを書く「按」の欄に、ふつう鱵魚と呼ぶものは身の長さ七、八寸で、「下喙三寸許如鐵針黒尖」、下のくちばしは三寸ほどあり、鉄の針のように黒くとがっている、と書きました。そして終わりに「蓋海中魚其謂出江湖者未審」、おそらく海の魚であって、江や湖に出るというのはよくわからない、と時珍の「生江湖中」に疑問を残しています。益軒も良安も、字の由来になった下のくちばしを、自分の目で確かめるように書きとめていました。

蘭山の「鐵針ノゴトシ」と、国ごとの呼び名

小野蘭山の『本草綱目啓蒙』の重訂版(弘化4年、1847年)では、巻之四十のコマ25の左端に見出しの「鱵魚」が立ち、その下にまず「ヨリトウヲ」と延喜式の名が引かれています。めくったコマ26の右端の列には、「サヨリ」に京、「サイヨリ」に越前と小さく添えた、土地ごとの呼び名が続きます。

『重訂本草綱目啓蒙』巻之四十コマ26の見開き。右ページに鱵魚の項の続き
右ページの右端の列が国ごとの呼び名、中ほどから「サヨリハ形雞魚ニ似テ」と姿の説明が始まる。鱵魚の項は左ページの右寄りまで続き、その先は別の魚の項。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『重訂本草綱目啓蒙』巻之四十・小野蘭山 口授・弘化4年刊・NDL PID:2555647 コマ26・著作権保護期間満了)

姿の説明で、蘭山は上のくちばしを短くとがったもの、下のくちばしを「下喙ハナガク色黒クシテ鐵針ノゴトシ」、長く黒くて鉄の針のようだと書き、さらにその先は「尖頭ハ微赤ヲ帯」、わずかに赤みを帯びると加えています。梅園がサヨリの下あごの先を赤く塗ったのと、同じところを見ています。

『重訂本草綱目啓蒙』コマ26の鱵魚の姿を書いた二列を赤枠で囲み、翻刻と現代語訳を並べた画像
赤枠が下のくちばしと鱗、身の色を書いた二列。右に翻刻、下に現代語訳。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『重訂本草綱目啓蒙』巻之四十・NDL PID:2555647 コマ26・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

シ 下喙ハナガク色黒クシテ鐵針ノゴトシ 尖頭ハ微赤ヲ帯 トモニ軟ニシテ堅利ナラズ 鱗極細ク色淡蒼 肉潔白ニ

現代語訳

(上のくちばしは短くとがっている。)下のくちばしは長く、色は黒くて鉄の針のよう。先はわずかに赤みを帯びる。ともに柔らかで、硬く鋭くはない。鱗はごく細かく、色は淡い青。身は真っ白で……

くちばしは軟らかで硬く鋭いわけではないとも書き、鱗はごく細かく色は淡い青、身は真っ白だと続けます。字のうえでは針と呼ばれても、刺さるような硬さはない、という観察まで添えているのが蘭山らしいところです。

『重訂本草綱目啓蒙』コマ26の「下喙ハ」と「鐵針ノゴトシ」の大写し
右が「下喙ハ」、左が同じ列の少し下の「鐵針ノゴトシ」。一つの列の二か所を切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『重訂本草綱目啓蒙』巻之四十・NDL PID:2555647 コマ26・著作権保護期間満了)

明治の俗字集に並ぶ「細魚」

細魚という書き方は、明治20年(1887年)に大日本水産会から出た農商務省農務局編の『水産俗字集』に見つかります。カナの見出しごとに、いろいろな本で使われた字を出典の印つきで並べた名簿で、コマ25の「サ之部」の「サヨリ」の項に、鍼口魚、水晶魚などと並んで「鱵、細魚、針嘴魚」とあり、そのあとに丸囲みの「永」の印がついています。

『水産俗字集』コマ25の見開き。左ページの「サ之部」に「サヨリ」の項
左ページの「サ之部」の中ほどが「サヨリ」の項で、字が二列にわたって並び、丸囲みの出典の印がつく。右ページは別の部。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『水産俗字集』・農商務省農務局 編・大日本水産会 明治20年刊・NDL PID:842637 コマ25・著作権保護期間満了)

巻頭の引用書目を見ると、永の印の本は『永代節用無盡藏』で、天保二年板とされています。天保の節用集、つまり日常の字引に、鱵と並んで細魚が載っていたことになり、体の細さを字にした書き方も、くちばしの針を字にした書き方と同じ棚に並んでいました。

筆者が市場で見てきたこと

市場で見るサヨリは、千葉や神奈川など関東の近くのものと、瀬戸内や九州など西のものの両方です。呼び名はサヨリで、大きいものはカンヌキと呼ばれています。良し悪しは、銀色の光りと体の張り、それに太さ(大きさ)で決めます。出回るのは春先の2月から4月ごろです。

字のもとになったのは下あごの針でしたが、品定めで見るのは、蘭山が「鱗極細ク色淡蒼」と書いた体のほうの、銀色の光りと張りと太さです。

鱵

  • 読みは「さより」、音はシン。魚へんに箴(はり)、26画
  • 『本草綱目』は「此魚喙有一鍼故有諸名」、くちばしの一本の鍼が名の由来
  • 『箋注倭名類聚抄』の針魚は「口長四寸如針、故以名之」、山海経では魚へんのない「多箴魚」
  • 益軒は「上ノクチハシ短ク下ノ喙長シ」、良安は「下喙三寸許如鐵針黒尖」、蘭山は「鐵針ノゴトシ」
  • 細魚は明治の『水産俗字集』に、『永代節用無盡藏』の字として載る

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関連する漢字

『本草綱目』の「江湖」の魚と江戸の学者の食い違いは、魛(魚へんに刀)の記事にも出てきます。『和漢三才図会』が「形似鱵」とサヨリにたとえた魚には魳(カマス)があり、サヨリの名で売られたサンマの話は別の記事に書きました。ほかの字は魚へんの漢字一覧と魚へんの漢字の由来の索引にまとめています。

この記事でわかったこと

  • 魚へんに箴(はり)の「鱵」です。

    読みは訓がさより、音がシンで、画数は26画です(Unicode の Unihan Database、U+9C75)。ほかに針魚、細魚とも書きます。

  • 「さより」と読み、音読みは「シン」です。

    『本草綱目』は鱵魚の音を「音針」、針と同じ音としています(承応2年和刻本、NDL PID:2556596 コマ77)。

  • くちばしの針です。

    『本草綱目』は「此魚喙有一鍼故有諸名」と書き(NDL PID:2556596 コマ77)、『箋注倭名類聚抄』の針魚の項は「口長四寸如針、故以名之」と説明しています(NDL PID:991791 コマ13)。

  • はい。

    針魚は『和名類聚抄』の見出しで、読みは「波利乎」、注に「今俗呼左與利」とあります(NDL PID:991791 コマ13)。細魚は明治の『水産俗字集』のサヨリの項に「鱵、細魚、針嘴魚」と並んでいます(NDL PID:842637 コマ25)。

この記事で開いた原本

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