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魚へんの漢字

魚へんに市の読み方は?魳でカマス|江戸の学者三人が割れた字

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難易度 上級

この字、読めますか?

魳

訓
かます
音
ソウ・シ
画数
15画
この記事の目次

毛利梅園の図譜の見開きを、口のとがった細長い魚が斜めに横切っています。その脇の書き入れに、梅園は「和俗用魳ノ字ヲ」と書きました。魚へんに市場の市を書いたように見えるこの「魳」はカマスと読み、干物でおなじみの、とがった口にするどい歯をもつ細長い魚の名です。

『梅園魚品図正』巻1コマ24の見開き。口のとがった細長い魚が斜めに大きく描かれ、右に書き入れ。左上は別の魚(アイナメ)
毛利梅園の図譜。見開きを斜めに横切る、口のとがった細長い魚が答え。左上はアイナメ、右下の小さな二尾は別の魚。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻1・毛利梅園筆・NDL PID:1287112 コマ24・著作権保護期間満了)

ところが、この字の素性については江戸の学者の言うことがそろっていません。ある人は「日本で勝手に作った字」と言い、ある人は「字書に載っている字」と言い、またある人は「昔から使ってきた字」と言いました。三冊の原本を順に開き、あわせて東京の市場の統計で、いまのカマスがいくらで取引されているかも拾っておきます。

「魳」の基本データ

読み
かます・ぶり(訓)、ソウ・シ(音)
画数
15画(魚へん11画+右側4画)
形
魚へんに「市」に見えるが、右側は4画の「帀」
中国の本では
カマスは「梭魚」「梭子魚」。機織りの梭(ひ)に似た魚、の意味
江戸の本は
『大和本草』は「倭字」、『本朝食鑑』は「字書惟爲魚名」、『和漢三才図会』は「自古用来」
難易度
上級

読みと画数は Unicode の Unihan Database(U+9B73)による

字の成り立ち 右側は「市」ではなく「帀」

魳=魚+帀うおへん市によく似た4画の字。音はソウ

最初に開いたのは、人見必大(ひとみ・ひつだい)の食べものの本『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』で、巻八のコマ182にカマスの項があります。

『本朝食鑑』巻八コマ182の見開き。右ページの右から二列目の上に見出しの字「魳」
『本朝食鑑』巻八の見開き。右ページの右から二列目のいちばん上が見出しの「魳」。その下に小さな字の注、左へ「釋名」「集解」と続く。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻八・人見必大著・NDL PID:2557333 コマ182・著作権保護期間満了)
『本朝食鑑』コマ182の見出し「魳」と注「訓加麻須」、釈名の「近世用魳字 字書惟爲」の大写し
右が見出しの「魳」と、その下の小さな注。注の左の行に「訓加(麻須)」。中と左は釈名の注の一列を二つに切ったもので、「近世用魳」「字 字書惟(爲)」と続く。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻八・人見必大著・NDL PID:2557333 コマ182・著作権保護期間満了)

見出しは「魳」で、下の小さな注に読みが「訓加麻須」、つまり、かますと書かれています。目を引くのは同じ注の頭に小さく見える「帀」の字で、市場の市がなべぶたの下に巾を置いた5画なのに対し、帀は横一本の下に巾を置いた4画の、よく似た別の字です。Unicode の Unihan Database も魳の右側を4画と数えていて、世間で「魚へんに市」と覚えられている字は、もとをただせば魚へんに帀でした。

釈名の注には「近世用魳字、字書惟爲魚名」とあります。近ごろはこの字を使っているが、字書はただ魚の名とするだけだ、という書きぶりで、必大は魳を中国の字書に載っている字と見たうえで、それがどの魚を指すのかまでは字書に書かれていない、と考えていたようです。

益軒は「倭字」、良安は「昔から使ってきた」

貝原益軒(かいばら・えきけん)は同じ字を、まるで違う棚に置きました。『大和本草(やまとほんぞう)』の凡例、コマ25です。

『大和本草』凡例コマ25の見開き。「一」で始まる箇条が漢文で並び、字の脇に送り仮名や振り仮名がつく
『大和本草』の凡例。左ページの中ほどの列に、振り仮名つきの魚へんの字が続けて出てくる。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『大和本草』[1]・貝原篤信・宝永6年・NDL PID:2557353 コマ25・著作権保護期間満了)
『大和本草』凡例の「鱈鰆鰯」と「魳鮟鱇」の大写し。字の右に振り仮名タラ・サハラ・イハシ・カマス・アン・カウ
凡例の同じ列を二つに切って並べた大写し。右が「鱈(タラ)鰆(サハラ)鰯(イハシ)」、左がその続きの「魳(カマス)鮟鱇(アンカウ)」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『大和本草』[1]・貝原篤信・宝永6年・NDL PID:2557353 コマ25・著作権保護期間満了)

益軒は、正しい字を知らない世間がみだりに作った「倭字」の例として魚の字をならべ、鱈、鰆、鰯と続けたすぐあとに「魳」を置いて、振り仮名を「カマス」と振りました。この一覧は魚へんの国字の記事でくわしく読んでいますが、益軒にとって魳は、まぎれもなく日本で作った字だったわけです。

三冊目は、寺島良安(てらじま・りょうあん)の絵入り百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』の巻四十九、コマ25です。

『和漢三才図会』巻四十九コマ25の見開き。左ページの右に細長い魚の絵と見出し「梭子魚」
『和漢三才図会』巻四十九の見開き。左ページの右寄りに、カマスの絵と見出しがある。右ページは別の魚(油身魚)の項。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ25・著作権保護期間満了)
『和漢三才図会』コマ25の見出し「梭子魚」と振り仮名「かます」、注「魳 音帀」「以上自古用来」「俗云加末須」の大写し
見出しは「梭子魚」。右に振り仮名「かます」。下の小さな注の右上が「魳 音帀」、その左の列の下が「以上自古用来」。左下に「俗云加末須」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ25・著作権保護期間満了)

こちらの見出しは魚へんの字ではなく「梭子魚」で、振り仮名が「かます」です。下の小さな注に「魳 音帀」とあって魳の音は帀と同じだと示し、続けて「以上自古用来」、これらの字は昔から使ってきたものだ、と添えています。良安は見出しには中国の名前を立て、魳のほうは日本で昔から使われてきた字として脇に置いたのです。

倭字とした益軒、字書に載る魚の名とした必大、昔から使ってきた字とした良安。同じ「魳」の一字に、三人がそれぞれ別の札をつけていたことになります。

中国では、カマスは機織りの「梭」の魚

良安が見出しに立てた「梭子魚」の梭(ひ)は、機織りで横糸を通すときに使う、両端のとがった舟形の道具です。本文の頭で、良安はその形のことを書いています。

『和漢三才図会』コマ25のカマスの項の本文の頭。「△按梭子魚形似鱵而青黒色」「似織梭之形」の列
本文の頭。右の列が「△按梭子魚形似鱵而青黒色…」、二列目の上に「(身)圓肥似織梭之形」。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ25・著作権保護期間満了)

形はサヨリ(鱵)に似て青黒いという「形似鱵而青黒色」に続いて、「似織梭之形」、機織りの梭の形に似ている、とあります。必大も『本朝食鑑』コマ182の集解に「身圓肥而最似織梭」と書いていて、体がまるく肥えていて何より梭に似ている、という見立ては二人に共通していました。

冒頭の梅園の図に戻って、書き入れを大きくしてみます。

『梅園魚品図正』コマ24の書き入れ「閩書南産志曰 梭魚 カマス 其形似梭…和俗用魳ノ字ヲ」と「料理綱目 魳 カマス 梭魚」の大写し
右が「閩書南産志曰 梭魚(カマス)其形似梭觜長…和俗用魳ノ字ヲ」。左が「料理綱目 魳(カマス)梭魚」。二か所を切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』巻1・毛利梅園筆・NDL PID:1287112 コマ24・著作権保護期間満了)

梅園は中国の地方の記録『閩書南産志』から「梭魚」を引いて仮名で「カマス」と振り、「其形似梭」、その形は梭に似る、と写しています。そのあとに来るのが「和俗用魳ノ字ヲ」で、日本の世間では魳の字を使う、と梅園もこの字を日本の側のものとして書きとめました。

中国の名前は形から来た「梭の魚」で、日本はそれとは別に魳の字を使ってきた、というところまでは江戸の本の言うことが一致しています。けれども、魳の字がなぜカマスを指すのか、その理由まで書いた本は、開いた範囲では見つかりませんでした。

岸近くで群れて、魚を食べる魚

いまの資料では、世界の魚のデータベース FishBase のアカカマス(Sphyraena pinguis)とヤマトカマス(Sphyraena japonica)のページから、次のような数字を拾いました。

カマスの基本データ

アカカマス
学名 Sphyraena pinguis。最大で全長50cm
ヤマトカマス
学名 Sphyraena japonica。最大で標準体長35cm
分布(アカカマス)
南日本から東シナ海、南シナ海の北部
すみか(アカカマス)
岸近くの泥、砂まじりの泥、岩の底。ふつう大きな群れをつくる
食べもの
どちらも魚を食べる

FishBase による

岸の近くで大きな群れをつくって魚を食べる魚ですから、梅園が描きこんだとがった口と歯は、そのための道具ということになります。

市場の現場から カマスは1kg1,349円、開き干しは896円

東京都中央卸売市場(豊洲市場など)の令和7年(2025年)の年次統計から、1kgあたりの平均価格を拾いました(東京都中央卸売市場 市場統計情報・年次統計資料、「品目別・月別平均価格」)。

月

かます(鮮魚)

開干かます

年間

1,349円

896円

1月

1,267円

1,023円

2月

1,433円

1,034円

3月

1,422円

1,096円

4月

1,271円

1,106円

5月

1,091円

1,030円

6月

1,318円

797円

7月

1,732円

724円

8月

1,629円

770円

9月

1,541円

741円

10月

1,294円

879円

11月

1,241円

962円

12月

1,300円

1,142円

鮮魚の「かます」の年間平均は1kg1,349円で、同じ統計の鮮魚ぜんたいの平均1,691円より少し安いところにあります。月ごとに見ると、いちばん安い5月が1,091円、いちばん高い7月が1,732円で、その差は1.6倍ほどにとどまります。統計には「開干かます」の行もあり、こちらは年間平均896円、夏に安くなって7月が724円、12月が1,142円でした。

筆者が市場で見てきたこと

カマスは丸のままの鮮魚と開き干しの両方をよく扱う魚で、呼び名も二つあり、アカカマスは「本カマス」、ヤマトカマスは「水カマス」と呼ばれます。選ぶときはまず種類を見分け、それから太さと肩の盛り、腹の硬さ、目と鱗を見ます。値は時期よりも大きさで決まり、大きさ次第で一年じゅう値がつく魚です。

公開されている数字と突き合わせると、鮮魚と開き干しの両方を扱うという話は、統計に「かます」と「開干かます」の二つの行が立っていることと合います。時期で大きく動かないという点も、鮮魚のいちばん高い月がいちばん安い月の1.6倍ほどにすぎないことに表れていて、ボラのように何倍にも跳ねあがる魚とは様子が違います。種類を見分けるという目利きは、アカカマスが最大で全長50cm、ヤマトカマスが標準体長35cmという FishBase の数字とも重なり、大きくなるほうとそうでないほうがいるわけです。

大きさで値が決まるという話だけは、統計の「かます」が種類でも大きさでも分かれていないので確かめようがなく、筆者が売り場で見てきたこととしてそのまま書いておきます。

食べ方 江戸は「ただ焼いて食べるのがよい」

必大は『本朝食鑑』コマ182の集解で、カマスの食べ方をはっきり書いています。

「脂多味美、又有細刺、惟宜炙食、不堪膾烹也」。

脂が多くて味はよいが細かい骨があるので、ただ焼いて食べるのがよく、なますや煮ものには向かない、という指図です。続けて「處處江海有之、作鯗而多賞美」とあり、あちこちの海にいて、干物(鯗)にして多くの人が喜んで食べる、と書いています。焼きものと干物という江戸の本の食べ方は、いまの統計にならぶ「かます」と「開干かます」の二つの行に、そのまま重なっています。

魳

  • 魳の訓は「かます」、音は「ソウ・シ」。15画。魚へんの右は「市」ではなく4画の「帀」
  • 『本朝食鑑』の見出しは「魳」で「訓加麻須」。「近世用魳字、字書惟爲魚名」と書く
  • 『大和本草』の凡例は、魳を鱈・鰆・鰯とならべて「倭字」の例にあげる
  • 『和漢三才図会』の見出しは「梭子魚」。魳は「音帀」「以上自古用来」と添える
  • 中国の名は「梭魚」「梭子魚」。機織りの梭に形が似ている、の意味
  • 毛利梅園は「和俗用魳ノ字ヲ」と書き入れた
  • 東京の市場のカマスは1kg1,349円、開き干しは896円(令和7年)

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関連する漢字

益軒が「倭字」にあげた字は、鱈(魚へんに雪)、鰆(魚へんに春)、鮟鱇の記事でも読んでいます。中国の名前と日本の字がずれている魚には、鱧(魚へんに豊)、魴鮄(魚へんに方)、鰡(魚へんに留)があり、ほかの字は魚へんの漢字一覧と魚へんの漢字の由来の索引にまとめています。

この記事でわかったこと

  • 「魳」と書いて、カマスと読みます。

    Unicode の Unihan Database(U+9B73)には、訓の「かます」「ぶり」と、音の「ソウ」「シ」が登録されています。右側は市場の市(5画)ではなく、4画の「帀」で、全体は15画です。

  • 「魳」と書きます。

    江戸の『本朝食鑑』は見出しを「魳」とし、「訓加麻須」と注しています(NDL PID:2557333 コマ182)。中国の名前では「梭魚」「梭子魚」で、『和漢三才図会』は見出しを「梭子魚」としています(NDL PID:2596381 コマ25)。

  • 江戸の本で意見が分かれています。

    貝原益軒の『大和本草』は、魳を鱈・鰆・鰯とならべて「倭字」の例にあげました(NDL PID:2557353 コマ25)。人見必大の『本朝食鑑』は「字書惟爲魚名」、字書はただ魚の名とするだけだ、と書いています(NDL PID:2557333 コマ182)。

  • 形が、機織りの梭(ひ)に似ているからです。

    『和漢三才図会』は「似織梭之形」、『本朝食鑑』は「身圓肥而最似織梭」と書き、毛利梅園も『閩書南産志』から「梭魚…其形似梭」を引いています(NDL PID:1287112 コマ24)。

  • 東京都中央卸売市場の令和7年(2025年)の年次統計では、鮮魚の「かます」の年間平均は1kg1,349円、「開干かます」は896円でした。

    鮮魚はいちばん安い5月が1,091円、いちばん高い7月が1,732円です。

この記事で開いた原本

どれも国立国会図書館デジタルコレクションで、無料・登録なしで読めます。コマ番号から該当ページが開きます。

ほかの記事で使った本もあわせて見るなら記事で開いた原本の一覧へ。

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