魚へんに包の読み方はアワビ|鮑は中国で干し魚の字だった
この字、読めますか?
鮑
- 訓
- あわび
- 音
- ホウ
- 画数
- 16画
この記事の目次
魚へんに包と書く「鮑」はアワビと読みます。殻が一枚しかない、あの貝の字ですが、明の李時珍が『本草綱目』に書いたのは「鮑即今之乾魚也」、鮑とはいまの干し魚のことだ、という一文でした。中国の本で干した魚の字だったものが日本ではアワビの字になり、江戸の学者たちはそれを「もとは誤り」と書き残しています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園介譜』毛利梅園・写本・NDL PID:1286918 コマ39・著作権保護期間満了)
貝なのに魚へんで、しかも「包む」という字面の理由も、その中国の本に書いてありました。中国と江戸・明治の原本で字の行き来を追ったあと、東京の市場の統計で、いまのアワビの値段も拾っています。
「鮑」の基本データ
- 読み
- あわび(訓)・ホウ(音)
- 画数
- 16画(魚へん11画+右側5画)
- 形
- 魚へんに「包」
- 中国では
- 干した魚の字。『本草綱目』は「鮑即今之乾魚也」と書く
- 江戸の本は
- 見出しに「鰒」を立て、鮑は「俗稱」とした
- ほかの字
- 鰒・蚫(虫へんに包)・石決明
- 難易度
- 中級
読みと画数は Unicode の Unihan Database(U+9B91)による
江戸の本の見出しは「鰒」、鮑は「俗稱」
寺島良安(てらじま・りょうあん)の絵入り百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』では、貝を集めた巻四十七のいちばん最初の項、コマ3にアワビが置かれています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十七・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596380 コマ3・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十七・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596380 コマ3・著作権保護期間満了)
見出しは「鰒」で、魚へんに復の右側を書く字です。別の名前として「石決明」「九孔螺」が並び、「和名阿波比」と添えてあるので、貝の部の先頭に置かれた貝は、鮑ではなく鰒の字で書かれていたことになります。
人見必大(ひとみ・ひつだい)の食物の本『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』(元禄10年=1697年刊)も、巻十のコマ56で同じ字を立てています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻十・人見必大著・元禄10年刊・NDL PID:2557334 コマ56・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻十・人見必大著・元禄10年刊・NDL PID:2557334 コマ56・著作権保護期間満了)
見出しの「鰒」の下、名前を説く「釋名」の欄の最初に「鮑 俗稱」とあり、鮑は世間での呼び名という扱いです。続けて必大は「鮑本邦素用此字」、鮑はわが国でもとから使ってきた字だ、とも書いています。広く使われてはいるけれど見出しにはしない字、というのが江戸の二冊に共通する鮑の位置でした。
中国の鮑は干し魚の字だった
鮎や鮭のように、中国の本と日本とで指すものが違う字があり、鮑もその一つです。李時珍がまとめた薬の百科事典『本草綱目(ほんぞうこうもく)』を、承応2年(1653年)に日本で彫り直された和刻本で開くと、魚の巻のコマ104に「鮑魚」の見出しがあります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四・李時珍撰・承応2年刊・NDL PID:2556596 コマ104・著作権保護期間満了)
上の余白には墨と朱の書き入れがあります。名前を説く「釋名」の欄を読むと、こう始まります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四・李時珍撰・承応2年刊・NDL PID:2556596 コマ104・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む
翻刻
釋名 薨魚〔禮記。音考〕 蕭折魚〔魏武食制〕 乾魚 時珍曰、鮑即今之乾魚也。魚之可包者、故字從包。禮記謂之薨、魏武食制謂之蕭折。皆以蕭蒿承曝而成故也。其淡壓爲腊者曰淡……
現代語訳
【名前】薨魚(『礼記』。音は考)。蕭折魚(『魏武食制』)。乾魚。李時珍いわく、鮑とは、いまの干し魚のことである。包むことのできる魚なので、字は「包」に従う。『礼記』はこれを薨と呼び、『魏武食制』は蕭折と呼ぶ。どれも蕭蒿(ヨモギの類)に載せて日にさらして作るからである。塩をせずに押して干したものを淡……
「鮑即今之乾魚也」。アワビではなく魚を干したもので、別の名前として挙げられているのも「乾魚」でした。魚へんに包と書く理由も、同じ欄に書いてあります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本草綱目』巻四十四・李時珍撰・承応2年刊・NDL PID:2556596 コマ104・著作権保護期間満了)
「魚之可包者、故字從包」。包むことのできる魚だから字は「包」に従う、つまり包める魚、干した魚だから魚へんに包なのだ、という説明です。
この字は中国の古い言い回しにも出てきます。孔子の言行を集めた『孔子家語(こうしけご)』の一節を、寛政元年(1789年)に日本で刷られた本のコマ34で読みました。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『孔子家語』巻第四・王粛注・太宰純増注・寛政元年刊・NDL PID:2583163 コマ34・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む
翻刻
不聞其香、即與之化矣。與不善人居、如入鮑魚之肆、〔增〕說文曰、鮑、饐魚也。周禮籩人注云、鮑者於楅室中糗乾之、出於江淮也。○〔增〕鮑、歩卯反。 久而不聞其臭、亦與之化矣。丹之所藏者赤、漆之所藏者黒。
現代語訳
(よい人と一緒にいるのは、蘭の香る部屋に入るようなもので、長くいると)その香りが分からなくなる。香りと一つになってしまうからだ。よくない人と一緒にいるのは、鮑魚を売る店に入るようなもので、〔注:『説文』に「鮑は饐魚なり」とある。『周礼』の注には、鮑は部屋の中で乾かしたもので、江淮の地方から出る、とある。鮑の音は歩卯の反〕長くいるとその臭いが分からなくなる。これも臭いと一つになってしまうからだ。丹をしまう器は赤くなり、漆をしまう器は黒くなる。
「如入鮑魚之肆」。よくない人と一緒にいるのは鮑魚を売る店に入るようなもので、長くいるとその臭いが分からなくなる、という話です。あいだに挟まった小さな字の注は、『説文』という字書を引いて「鮑、饐魚也」と説明していて、話の中心は臭いにあり、アワビを並べた店の話ではありませんでした。
干し魚の字がアワビになったいきさつ
『本朝食鑑』の必大は、さきほどの「釋名」の続きに、干し魚の字がなぜ日本でアワビの字になったかについて自分の考えを書いています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻十・人見必大著・元禄10年刊・NDL PID:2557334 コマ56・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む
翻刻
釋名 鮑〔俗稱〕 殻名石決明〔本草〕 ○鮑、本邦素用此字、非無據。源順曰、四聲字苑云、鰒、蒲角反、與雹同。今案、一音伏、見本草音義。又本草云、鮑、一名鰒。鮑音抱。和名阿和比。愚按、源順言本草者未詳。時珍綱目曰、鮑、乾魚也。今以此諸說而考之、則以鰒爲鮑者本訛矣。謝肇淛五雜組……
現代語訳
【名前】鮑(世間の呼び名)。殻は石決明と名づける(『本草』)。○鮑の字は、わが国でもとから使っていて、根拠がないわけではない。源順は「『四声字苑』にいう、鰒は蒲角の反、雹と同じ音。いま考えるに、もう一つの音は伏で、『本草音義』に見える。また『本草』にいう、鮑は一名を鰒という。鮑の音は抱。和名はアワビ」と書いている。私が考えるに、源順のいう『本草』が何を指すのかは、よく分からない。李時珍の『本草綱目』は、鮑は干し魚だと言っている。これらの説をあわせて考えると、鰒を鮑と書くのは、もともと誤りである。謝肇淛の『五雑組』は……
必大がまず引くのは、平安時代に源順(みなもとのしたごう)がまとめた辞書『和名抄(わみょうしょう)』で、そこには「本草云、鮑、一名鰒」、中国の薬の本に鮑は別の名を鰒という、とある。だから鮑の字を使うのは「非無據」、根拠がないわけではない、とまずは認めます。けれども源順のいう「本草」が何を指すのかはよく分からず、李時珍は鮑は干し魚だと言っている、と続けて、結論に入ります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『本朝食鑑』巻十・人見必大著・元禄10年刊・NDL PID:2557334 コマ56・著作権保護期間満了)
「以鰒爲鮑者本訛矣」。鰒を鮑と書くのは、もともと誤りである。
その誤りがどこで生まれたのかまで突き止めようとしたのが、江戸後期の考証学者・狩谷棭斎(かりや・えきさい)でした。『和名抄』に細かい注をつけた『箋注倭名類聚抄(せんちゅうわみょうるいじゅしょう)』(明治16年刊)の巻八、コマ48です。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『箋注倭名類聚抄』巻第8・狩谷棭斎著・明治16年・NDL PID:991791 コマ48・著作権保護期間満了)
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翻刻
……轀輬中物可笑。皇國俗有作蚫者。新撰字鏡云、蚫、阿波比。以呂波字類抄云、鮑、蚫俗同、是也。今俗亦用是字。輔仁既訓石決明爲阿波比、又以有鰒或作鮑者、誤認本草鮑魚爲鰒魚、亦訓爲阿波比。源君襲其誤、混鮑鰒爲一、遂言鮑魚一名鰒魚。其實本草鮑魚鰒魚迥別。……
現代語訳
……(始皇帝の)車の中の物になってしまい、笑うべきだ〔ここまで清の本『香祖筆記』の引用〕。わが国では、俗に蚫(虫へんに包)と書くことがある。『新撰字鏡』に「蚫、アワビ」、『以呂波字類抄』に「鮑、蚫は俗に同じ」とあるのがそれで、いまも世間ではこの字を使う。輔仁は石決明をアワビと読んだうえに、鰒を鮑と書くことがあるために『本草』の鮑魚を鰒魚と取り違え、これもアワビと読んだ。源君(源順)はその誤りを受け継ぎ、鮑と鰒を一つに混ぜて、ついに「鮑魚は一名を鰒魚という」と書いた。じつは『本草』の鮑魚と鰒魚は、まったく別のものである。……
「誤認本草鮑魚爲鰒魚」。『本草和名』をまとめた輔仁が、鰒を鮑と書くことがあるために中国の薬の本の「鮑魚」を「鰒魚」と取り違えてこれもアワビと読み、源順はその誤りをそのまま受け継いだ、というのが棭斎の見立てで、注は「其實本草鮑魚鰒魚迥別」、じつは本草の鮑魚と鰒魚はまったく別のものだ、と結ばれています。
取り違えは日本だけの話でもなかったようで、棭斎は同じ注に、謝肇淛(しゃちょうせい)の『五雑組』という中国の本から、鰒について「今人讀作鮑、非也」という一文を引いています。中国にも鰒を鮑と読む人がいて、それを誤りと書く人がいたわけです。いまでも Unicode の Unihan Database は、鮑の字の意味として「abalone(アワビ)」と「dried fish(干し魚)」の両方を挙げています。
虫へんの「蚫」
棭斎の注にはもう一つ、「皇國俗有作蚫者」という字が出てきます。わが国では世間で虫へんに包の「蚫」と書くことがある、というのです。冒頭の絵を描いた毛利梅園(もうり・ばいえん)も、絵の右上に名前を並べた書き入れでこの字を使っていました。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園介譜』毛利梅園・写本・NDL PID:1286918 コマ39・著作権保護期間満了)
大きく書かれた名前は、右から「鰒」「石決明」、そして虫へんの「蚫」です。明治の大槻文彦(おおつき・ふみひこ)の国語辞書『言海(げんかい)』(明治22〜24年刊)でも、コマ82の見出しに立つのは同じ二字でした。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『言海』大槻文彦・明治22〜24年・NDL PID:992954 コマ82・著作権保護期間満了)
見出しの字は「鰒」と「蚫」で、魚へんに包の鮑はここにも立っていません。江戸の本が「俗稱」と呼び、「もとは誤り」と書いた字でありながら、「本邦素用此字」、この国ではずっと使われてきたのが鮑という字です。
殻は一枚、海藻を食べて育つ
『言海』はアワビの姿を「殼、一片ニシテ蓋ナク、海底ノ石ニ貼ク」と書き、内側は「淡藍ニシテ光ル、螺鈿ニ用ヰル」、うす青く光って螺鈿(らでん)の細工に使う、と説明しています。
アワビの基本データ
- 種類
- クロアワビ・エゾアワビ・マダカアワビ・メガイアワビの4種類
- すみか
- 北海道南部から九州まで。潮の引く磯から水深50mほどまでの岩場
- 食べもの
- カジメ、アラメなどの海藻。ちぎれて海底をただよう「寄り藻」が大事な餌
- 産卵期
- 11〜1月
- 成長
- 生まれて4〜5年で漁獲サイズ(殻の長径11cm以上)になる
- オスとメス
- キモ(生殖腺)の色で見分ける。オスは白〜茶、メスは緑や紫
神奈川県水産技術センター「おさかな図鑑(アワビ類)」による
数字は、神奈川県水産技術センターのおさかな図鑑(アワビ類)で確かめました。同じページには、稚貝を育てるあいだカジメと人工の餌だけを食べさせると殻が緑色になるので、海に放したアワビと天然のアワビは殻の色で見分けられる、という豆知識も載っています。
市場のアワビは1kg7,184円、いちばん高いのは6月
東京都中央卸売市場(豊洲市場など)の令和7年(2025年)の年次統計から、1kgあたりの平均価格を拾いました(東京都中央卸売市場 市場統計情報・年次統計資料、「品目別・月別平均価格」)。
統計の区分 | 年間平均(1kg) | いちばん高い月 | いちばん安い月 |
|---|---|---|---|
あわび | 7,184円 | 6月 9,612円 | 12月 5,289円 |
えぞあわび | 3,080円 | 8月 3,296円 | 3月 2,613円 |
冷あわび(冷凍) | 3,272円 | 2月 3,737円 | 7月 2,849円 |
「あわび」は年間平均で1kg7,184円で、貝類ぜんたいの平均2,008円の3.6倍、貝類37品目のなかでは「かいばしら」の7,938円に次いで2番目に高い品目でした(同「主要品目別取扱高」)。量は年間437トンで貝類の15番目にとどまるのに、金額は約31億3,700万円で4番目に入ります。月ごとに見ると5月から9月が高く、いちばん高い6月の9,612円は、いちばん安い12月の5,289円の1.8倍です。
統計には「えぞあわび」という区分も別にあり、こちらは年間10トン、平均3,080円です。ただ、「あわび」と「えぞあわび」の区分にそれぞれどのアワビが入っているのかは、この表からは分かりません。
筆者が市場で見てきたこと
市場で扱うアワビは、基本的に活けです。安定して量が多いのは養殖のエゾアワビで、そのエゾアワビにも韓国産と国産があります。食べて違いが分かる人は少ないのに、韓国産のほうが安値になるのは、餌に由来する殻の緑色が韓国産のほうが強いからかもしれません。
呼び名は「エゾ」と「本アワビ」で分け、種類ではクロアワビを「クロ」、メガイアワビを「アカ」、マダカアワビを「マダカ」と呼びます。選ぶときに見るのは、張りつく力と動き、身の厚みと盛り上がり、重さと大きさ、そして殻の色と見た目の四つ。値が高くなるのは夏で、初夏からお盆にかけてです。
値の時期は、5月から9月が高く6月がいちばんの高値という統計のとおりでした。殻の緑色については、さきほどの神奈川県水産技術センターのページがカジメと人工の餌だけで育てるあいだは殻が緑色になると書いていて、餌で殻の色が変わること自体は公的な資料でも確かめられます。
韓国産については、門司税関が令和4年(2022年)9月に公表した特集に数字があります(門司税関「あわびの輸入」。インターネットアーカイブの保存版)。2021年に日本が輸入した、生きている・生鮮・冷蔵のアワビは1,793トンで、その96.1%が韓国からでした。同じ特集は、国内のアワビの漁獲量が2012年の1,266トンから2020年の669トンへ減ったことを挙げたうえで、輸入が続く理由として、品質の安定した養殖アワビを一年を通して供給できること、活魚車で運ぶので韓国からのフェリーが入る下関港や博多港が便利なこと、という業界の声を紹介しています。活けで入って量が安定しているのは養殖もの、という市場での実感と重なる内容です。
のしと片思い
アワビは食べものである前に、贈りものの印でした。ご祝儀袋の「のし」は、もとはアワビを薄く剥いて延ばし、干したものです。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『日本山海名産図会 5巻』・NDL PID:2575828 コマ8・著作権保護期間満了)
題字は「長鮑制」で、「長鮑」に「のし」と振り仮名があります。江戸の本がその作り方と名前の由来をどう書いたかは、のしの由来の記事で読んでいます。殻が片方しかないことから生まれた言い回しが「磯の鮑の片思い」で、万葉集の歌から明治の辞書までは磯の鮑の片思いの記事でたどりましたが、このことわざを載せた江戸・明治の本でも、字は「鮑」のものと「蚫」のものがありました。学者が「もとは誤り」と書いても、世間の字は変わらなかったのです。
醤油で煮て運んだ煮貝
農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」は、山梨県のあわびの煮貝を載せています。海のない山梨の名産品がアワビというのも面白いところで、その始まりには諸説あり、いちばんよく語られるのは、駿河(静岡県)で獲れたアワビを醤油漬けにして樽に詰め、馬で甲州へ運んだところ、峠道を数日かけて運ぶうちにちょうどよい味加減になっていた、という話だそうです。
作り方は、殻付きのまま蒸すなどして火を通し、殻から外して醤油ベースのタレにじっくり漬けこんで煮るもので、薄く切ってしそや薄切りのきゅうりと盛り付けて食べる、とあります。干した魚を包める魚と書いた字は、日本では、醤油で煮て樽で運ぶ貝の字になっていました。
鮑
- 読みは「あわび」。魚へんに包、16画。音は「ホウ」
- 中国の『本草綱目』では、鮑は干し魚の字。「魚之可包者、故字從包」
- 江戸の『和漢三才図会』と『本朝食鑑』は、見出しに「鰒」を立てた
- 『本朝食鑑』は「以鰒爲鮑者本訛矣」、鰒を鮑と書くのはもとは誤りと書いた
- 狩谷棭斎は、本草の「鮑魚」を「鰒魚」と取り違えたのが始まりと見た
- 東京の市場で「あわび」は1kg7,184円。いちばん高いのは6月(令和7年)
UOMEDIA|uomedia.jp
この記事でわかったこと
「鮑」と書いてアワビと読みます。
音読みは「ホウ」です。Unicode の Unihan Database(U+9B91)に登録されている読みは訓の「あわび」と音の「ホウ」で、16画の字です。
鮑は、中国ではもともと干した魚を指す字です。
李時珍の『本草綱目』は「鮑即今之乾魚也。魚之可包者、故字從包」、鮑はいまの干し魚のことで、包むことのできる魚だから字は包に従う、と書いています(NDL PID:2556596 コマ104)。
江戸の学者は、アワビの字「鰒」と取り違えたためだと書いています。
『本朝食鑑』は「以鰒爲鮑者本訛矣」、鰒を鮑と書くのはもとは誤りとし(NDL PID:2557334 コマ56)、狩谷棭斎の『箋注倭名類聚抄』は、輔仁が本草の鮑魚を鰒魚と取り違えてアワビと読み、源順がそれを受け継いだと書いています(NDL PID:991791 コマ48)。
鰒・鮑・蚫は、どれもアワビに使われてきた字です。
江戸の『和漢三才図会』と『本朝食鑑』は見出しに鰒を立て、『本朝食鑑』は鮑を「俗稱」としました。蚫(虫へんに包)は『箋注倭名類聚抄』が「皇國俗有作蚫者」と書く字で、明治の『言海』は見出しに鰒と蚫を並べています(NDL PID:992954 コマ82)。
「鮑魚の肆」は、鮑魚を売る店のことで、中国の『孔子家語』に出てくる言い回しです。
「與不善人居、如入鮑魚之肆」、よくない人と一緒にいるのは鮑魚の店に入るようなもので、長くいると臭いが分からなくなる、と続きます(NDL PID:2583163 コマ34)。
東京都中央卸売市場の令和7年(2025年)の年次統計では、「あわび」の年間平均は1kg7,184円でした。
いちばん高い月は6月の9,612円、いちばん安い月は12月の5,289円で、5月から9月が高値です。「えぞあわび」の区分は年間平均3,080円でした。
この記事で開いた原本
どれも国立国会図書館デジタルコレクションで、無料・登録なしで読めます。コマ番号から該当ページが開きます。
- 梅園介譜
〔毛利梅園//画〕
- 和漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻.[33]
寺島良安尚順 編 [江戸時代]
- 本朝食鑑 12巻.[3]
丹岳野必大千里 著 [江戸時代]
- 本草綱目卷1-17,19-52,瀕湖脈學1卷奇經八脈攷1卷脈訣攷證1卷.[30]
明李時珍撰 承應2
- 孔子家語 : 10巻.[2]
王粛 注・太宰純 増注・千葉玄之 釐訂 1789
- 箋注倭名類聚抄.巻第8
狩谷棭斎 著 1883
- 言海 : 日本辞書.第1-4冊
大槻文彦 編 1889-1891
- 日本山海名産圖會 5巻.[3]
法橋關月 画 [18--]
ほかの記事で使った本もあわせて見るなら記事で開いた原本の一覧へ。



