魚へんに方の読み方は?魴鮄でホウボウ|江戸は「正字未詳」
この字、読めますか?
魴鮄
- 画数
- 15+16画
この記事の目次
『和漢三才図会』でホウボウの項を開くと、見出しは魚へんの字ではなく万葉仮名の「保宇婆宇」で、その脇に「正字未詳」、正しい字はわからないと小さく添えてあります。いまホウボウは魚へんに方の「魴」と、魚へんに弗の「鮄」を並べて「魴鮄」と書きますが、魴の一字は、中国ではまったく別の魚の名前でした。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』1帖・毛利梅園筆・NDL PID:1287112 コマ9・著作権保護期間満了)
赤い体に青緑の大きな胸びれをもち、海の底をひれの先で歩くように動く魚で、魴は一字ではなかなか見かけず、ほとんどいつも鮄と二字で使われます。
「魴」の基本データ
- 読み
- ホウ(音)。訓の登録は「おしきうお」など
- 画数
- 15画(魚へん11画+右側4画)
- 形
- 魚へんに「方」
- 使い方
- 「魴鮄」の二字でホウボウ。鮄は魚へんに「弗」、16画
- 中国では
- 『詩経』に出てくる別の魚。『説文』は「赤尾魚」
- 江戸の本は
- 『和漢三才図会』が万葉仮名で「保宇婆宇」、「正字未詳」。『魚鑑』は「俗に魴鮄の字を用ゆ、漢名未詳」
- 難易度
- 上級
読みと画数は Unicode の Unihan Database(U+9B74・U+9B84)による
江戸の百科事典は「正字未詳」
寺島良安(てらじま・りょうあん)の絵入り百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』の巻四十九、コマ23では、左ページの右寄りに魚の絵と見出しが並んでいます。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ23・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ23・著作権保護期間満了)
見出しが万葉仮名なのは、良安が当てるべき漢字を決めかねていたからで、その右下の「正字未詳」がそれをそのまま言っています。本文のほうは、魚の姿をかなり具体的に書いています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ23・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む
翻刻
△按保宇婆宇魚状色氣味共似銅頭魚而大其吻有硬鬚而尾鰭有五彩色其鱗細於銅頭魚大者尺餘炙食甚甘美肉厚白冬春以賞之
現代語訳
考えるに、ほうぼうは、姿も色も味も、どれもカナガシラに似ていて、それより大きい。口先に硬いひげがあり、尾とひれには五色のいろどりがある。うろこはカナガシラより細かい。大きいものは一尺あまり。焼いて食べると、とてもうまい。身は厚くて白い。冬と春に、これを喜んで食べる。
姿も色も味もカナガシラ(銅頭魚)に似ていてそれより大きく、口先に硬いひげがあり、うろこはカナガシラより細かく、大きいものは一尺あまりになるといいます。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『和漢三才図会』巻四十九・寺島良安編・江戸時代刊・NDL PID:2596381 コマ23・著作権保護期間満了)
「尾鰭有五彩色」、尾とひれに五色のいろどりがあるというのは、あの青緑の胸びれのことで、良安もそれを見ていました。そして「冬春以賞之」、冬と春にこれを喜んで食べる、と結んでいます。
魚へんに方の字が出てくるのは、武井周作(たけい・しゅうさく)の魚の本『魚鑑(うおかがみ)』(天保2年=1831年刊)でした。巻之上のコマ32、左ページの「ほの部」の次の列から、ほうぼうの項が始まります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『魚鑑』巻之上・武井周作著・天保2年刊・NDL PID:2557482 コマ32・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『魚鑑』巻之上・武井周作著・天保2年刊・NDL PID:2557482 コマ32・著作権保護期間満了)
「俗に魴鮄の字を用ゆ、漢名未詳」。世間では魴鮄の字を使うが、中国での名前はまだわからないというのですから、魴鮄はあくまで世間の字という扱いで、良安の「正字未詳」と同じことを周作は別の言い方で書いていることになります。
冒頭の毛利梅園(もうり・ばいえん)の『梅園魚品図正』コマ9にも、頭の左の書き入れに同じ二字があります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『梅園魚品図正』1帖・毛利梅園筆・NDL PID:1287112 コマ9・著作権保護期間満了)
「魴鮄」の下に小さく「俗」とあって、梅園もこの二字を世間の字として書きとめていました。左の「竹麥魚」は中国の地方の記録『寧波府志』から引いた名前で、梅園はこれにも「ホウボウ」と仮名を振っていますが、『魚鑑』はほうぼうの項の続き(コマ33)で同じ名前を挙げたうえで、「あるひは寧波府志の竹麥魚とす、詳ならず」とはっきりしない扱いにしています。
見比べて気づくのは振り仮名の違いで、梅園は魴鮄の脇に魚の名前そのままの「ホウボウ」と振っているのに、『魚鑑』の大写しで魴鮄の左の小さな字を読むと、「ホウホツ」と書いてあります(濁点はついていません)。二字めがボウではなくホツで、魚の名前ではなく字の音で読んだ振り仮名です。Unicode の Unihan Database も、鮄の日本の読みとして「ホツ」「フツ」などを挙げていて「ボウ」は挙げておらず、鮄をボウと読むわけは、字の音のほうからは説明がつきません。
『詩経』に出てくる、尾の赤い川魚の字
鮎や鮭のように、中国の本と日本とで指すものが違う字はいくつもあって、魴もその一つです。清の時代の漢字の辞書『康熙字典(こうきじてん)』を、日本で刷りなおした和刻本で開くと、魚部のコマ7、右ページの左端から二列目の下に見出しの魴があります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『康熙字典』安永9年刊の和刻本・NDL PID:2562615 コマ7・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『康熙字典』安永9年刊の和刻本・NDL PID:2562615 コマ7・著作権保護期間満了)
読みは「音房」で、房と同じ音、日本の音読みならホウです。中国の字書『説文(せつもん)』の説明は「赤尾魚」、尾の赤い魚で、続いて古い詩集『詩経』の一句「魴魚赬尾」、魴の尾が赤い、が引かれ、その注は「魚勞則尾赤」、魚は疲れると尾が赤くなると説明しています。魴はもともと、中国の古い詩に出てくる魚の字でした。
説明は見開きの左ページへ続き、その中ほどで明の字書『正字通』を引いて、魴の姿を書いています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『康熙字典』安永9年刊の和刻本・NDL PID:2562615 コマ7・著作権保護期間満了)
「魴魚小頭縮項闊腹穹脊細鱗色青白」、頭が小さく首が縮まり、腹は広く背は盛り上がっていて、うろこは細かく色は青白いというのですから、海の底を歩く赤い魚とは別物で、Unicode の Unihan Database もこの字の意味を英語で bream(コイ科の平たい川魚)と記しています。
『康熙字典』の魴の項を左ページの次の字(魵)の手前まで読んでも、ホウボウにあたる話は出てきません。日本では「ほう」という音をもつこの字を借りてホウボウに当てたのでしょうし、江戸の本が「俗」「正字未詳」と書いたのも、そう考えると筋が通ります。
名前の由来は「方帽の音か、どうだろう」
ホウボウという名前そのものについては、明治の国語辞書『言海(げんかい)』(明治22〜24年刊)が、見出しの漢字を「魴鮄」としたうえで、〔 〕の中に語源の説明を入れています。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『言海』大槻文彦・明治22〜24年・NDL PID:992954 コマ478・著作権保護期間満了)
「方帽ノ音カトモ云、イカガ」。四角い帽子の方帽の音だとも言うが、どうだろうかと、著者の大槻文彦(おおつき・ふみひこ)は説を紹介しながら自分では首をかしげています。説明はそのあと「左右ノ翅、長大ナレバ、時ニ海上ヲ飛ブ」「吻ニ堅キ鬚アリ」「肉厚ク白ク、味甘美ナリ」と続き、大きな胸びれ、口先のひげ、白くてうまい身と、良安が書いたことにほぼ重なります。
指のようなひれで海底を歩く魚
いまの資料では、新潟県が公開している持ち込まれた魚の記録に、実際の個体の数字が出ています。
ホウボウの基本データ
- 分類
- スズキ目ホウボウ科
- すみか
- 水深5〜615mの、泥や砂まじりの泥、貝殻と泥のまじった砂の底
- 分布
- 北海道から九州の日本海・太平洋沿岸、朝鮮半島、台湾、中国の沿岸
- 体の色
- ふつうは鮮やかな赤色。胸びれの内側に青や緑の色が出る
- 記録された個体
- 全長34.6cm、体重401.1g(令和8年4月、村上市の沖、水深約50m)
新潟県の公開資料による
同じ新潟県の佐渡のお魚情報通信は、ホウボウ科の魚は胸びれの一部が指のように変化していて、これで海底をはい回ったりえさを探したりすると説明しています。冒頭の梅園の図でも胸びれの下に細く分かれたすじが描かれていて、『言海』の「翅ノ下ニ、三條ノ刺アリ」、胸びれの下に三本のとげがあるというのも、この指のような部分を指しているようです。
江戸の本がそろって引き合いに出したカナガシラも同じホウボウ科の魚で、佐渡のページによれば、赤い体に目立った模様がないことで、ほかのホウボウ科の魚と見分けられます。土地ごとの呼び名は、越谷吾山(こしがや・ござん)の方言集『物類称呼(ぶつるいしょうこ)』(安永4年=1775年刊)のコマ31、左ページの上の欄外に四角で囲んだ見出しの下にあります。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『物類称呼』越谷吾山著・安永4年刊・NDL PID:2539349 コマ31・著作権保護期間満了)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『物類称呼』越谷吾山著・安永4年刊・NDL PID:2539349 コマ31・著作権保護期間満了)
見出しはここでも万葉仮名の「保宇保宇」で、佐渡では「きみうを」、薩摩では「ぼこの魚」と呼ぶとあり、『魚鑑』のほうは、西国では「ことひき」とも呼ぶと書いていました。
豊洲のホウボウは1kg1,300円
東京都中央卸売市場(豊洲市場など)の令和7年(2025年)の年次統計から、1kgあたりの平均価格を拾いました(東京都中央卸売市場 市場統計情報・年次統計資料、「品目別・月別平均価格」)。
月 | 平均価格(1kg) |
|---|---|
年間 | 1,300円 |
1月 | 1,364円 |
2月 | 1,573円 |
3月 | 1,402円 |
4月 | 1,186円 |
5月 | 1,197円 |
6月 | 1,163円 |
7月 | 1,193円 |
8月 | 1,685円 |
9月 | 1,311円 |
10月 | 1,231円 |
11月 | 1,255円 |
12月 | 1,303円 |
「ほうぼう」の年間平均は1kg1,300円で、同じ統計の鮮魚ぜんたいの平均1,691円より安いところにいます。いちばん安い6月が1,163円、いちばん高い8月が1,685円と、一年を通して1,100円台から1,600円台におさまっていました。
筆者が市場で見てきたこと
ホウボウは氷詰めの丸のままと活けで入ってきて、呼び名はそのまま「ホウボウ」です。選ぶときに見るのは、体の赤い色つやと、身の張りと腹の硬さです。
値は年間であまり変わらず、小さいものは安く、大きいものはそこそこ高いけれども、極端に高くはならない魚です。
統計と突き合わせると、値があまり動かないことはそのとおりで、いちばん高い月でもいちばん安い月の1.4倍ほどですし、極端に高くならないという点も、年間平均の1,300円が鮮魚ぜんたいの平均を下回っていることに出ています。赤い色を見るという目利きは新潟県の資料の「鮮やかな赤色」と合っていて、ふつうのホウボウは赤いので、筆者が見ているのはその赤のつやのほうです。
江戸の本と少し違うのは季節で、良安は「冬春以賞之」、『魚鑑』もコマ33で「冬月のは上選なり」と冬のものがいちばんよいと書いていますが、令和7年の東京の統計では、2月が1,573円と高めではあるものの、いちばん高いのは8月で、冬にはっきり値が上がるわけではありません。大きさで値が変わるという話は、統計の「ほうぼう」が大きさで分かれていないので確かめられず、筆者が売り場で見てきたこととして書いておきます。
江戸は「炙って甚だ甘美」
良安が書いた食べ方は焼きもので、「炙食甚甘美、肉厚白」、焼いて食べるととてもうまく、身は厚くて白いとあり、『言海』も「肉厚ク白ク、味甘美ナリ」と書いたように、江戸から明治まで、ホウボウは白身のうまい魚として通っていました。
いまの料理については、新潟県の佐渡のページが仲間のカナガシラを例に、白身で上品なうまみがあり、新鮮なものは刺身、ほかに焼きもの、煮つけなど多くの料理に合うと紹介していて、するどいとげがあるので、さばくときはけがに気をつけるようにと書きそえています。
魴鮄
- 魴の音読みは「ホウ」。魚へんに方、15画。「魴鮄」の二字でホウボウ
- 『和漢三才図会』の見出しは万葉仮名の「保宇婆宇」で、「正字未詳」と添えてある
- 『魚鑑』は「俗に魴鮄の字を用ゆ、漢名未詳」。毛利梅園も魴鮄に「俗」と書き入れた
- 『康熙字典』の魴は「音房」。『説文』は「赤尾魚」、『詩経』に「魴魚赬尾」。ホウボウとは別の魚
- 『言海』は名前の由来を「方帽ノ音カトモ云、イカガ」と書く
- 良安は「尾鰭有五彩色」「冬春以賞之」と書いた
- 東京の市場のホウボウは1kg1,300円。月ごとの値はあまり動かない(令和7年)
UOMEDIA|uomedia.jp
この記事でわかったこと
「魴」と書いて、音読みでホウと読みます。
「魴鮄」の二字でホウボウです。Unicode の Unihan Database(U+9B74)には、音の「ホウ」と、訓の「おしきうお」などが登録されています。15画の字です。
「魴鮄」と書きます。
魚へんに方の「魴」と、魚へんに弗の「鮄」です。江戸の『魚鑑』は「俗に魴鮄の字を用ゆ、漢名未詳」と書いていて(NDL PID:2557482 コマ32)、世間で使われていた字でした。ほかに「竹麥魚」と書く例があります。
魴は、もとは中国の別の魚の字です。
『康熙字典』は読みを「音房」とし、『説文』の「赤尾魚」と『詩経』の「魴魚赬尾」を引いています(NDL PID:2562615 コマ7)。日本でホウボウに当てたことについて、江戸の『和漢三才図会』は「正字未詳」と書いています(NDL PID:2596381 コマ23)。
明治の国語辞書『言海』は「方帽ノ音カトモ云、イカガ」と書いています(NDL PID:992954 コマ478)。
四角い帽子を意味する方帽の音だという説を紹介しつつ、著者はどうだろうかと疑っています。
江戸の『和漢三才図会』は「冬春以賞之」、冬と春に喜んで食べると書いています。
ただし東京都中央卸売市場の令和7年(2025年)の年次統計では、月ごとの平均価格は1kg1,163円から1,685円のあいだで、冬にはっきり高くなるわけではありませんでした。
東京都中央卸売市場の令和7年(2025年)の年次統計では、「ほうぼう」の年間平均は1kg1,300円でした。
鮮魚ぜんたいの平均1,691円より安く、いちばん高い8月が1,685円、いちばん安い6月が1,163円です。
この記事で開いた原本
どれも国立国会図書館デジタルコレクションで、無料・登録なしで読めます。コマ番号から該当ページが開きます。
- 梅園魚品図正.巻1
毛氏梅園元寿<毛利梅園>//撰輯 天保6(1835)序
- 和漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻.[34]
寺島良安尚順 編 [江戸時代]
- 魚鑑 2巻.[1]
武井周作 天保2 [1831]
- 康煕字典42卷附字典琢屑1卷字典初學索引1卷.[40]
清凌紹〓等奉敕撰・都賀庭鐘校・附都賀庭鐘撰 安永9
- 言海 : 日本辞書.第1-4冊
大槻文彦 編 1889-1891
- 物類称呼 5巻
越谷吾山 編 安永4 [1775]
ほかの記事で使った本もあわせて見るなら記事で開いた原本の一覧へ。



