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魚へんの漢字

魚へんに花の読み方はホッケ|江戸の図譜はカタカナ、字は明治から

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難易度 上級

この字、読めますか?

𩸽

訓
ほっけ
画数
19画
この記事の目次

魚へんに花と書いて「𩸽」、読みはホッケ。居酒屋の開き干しでおなじみの北の海の魚ですが、江戸の図譜はこの魚をカタカナでしか書いておらず、魚へんに花の一字が出てくるのは、明治の北海道庁の報告書になってからでした。

『栗氏魚譜』の見開きに描かれた、体に濃い横じまが並ぶ魚。左上にカタカナの書き入れ
栗本丹洲の図譜に描かれた、しま模様の魚。左上にカタカナで名前が書いてある。漢字は添えられていない。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『栗氏魚譜』第8冊・栗本丹洲・写本・NDL PID:1287426 コマ8・著作権保護期間満了)

花の字が入っているのだから花にちなんだ名前なのだろう、と読みたくなる字です。けれども今回開いた本のどれにも、なぜ花なのかを書いたものはありませんでした。

「𩸽」の基本データ

読み
ほっけ
画数
19画(魚へん11画+右側8画)
形
魚へんに「花」
生まれ
Unihan に登録されている読みは日本語の「ほっけ」だけ。中国語の読みは無い
機械では
JIS X 0213 の第4水準。古い機器では表示できないことがある
難易度
上級

読み・画数・規格は Unicode の Unihan Database(U+29E3D)による

江戸の図譜にはカタカナの名前だけ

𩸽=魚+花うおへん花(はな)

冒頭の絵は、栗本丹洲(くりもと・たんしゅう)の写本の図譜『栗氏魚譜(りっしぎょふ)』第8冊のコマ8で、横じまの濃い魚の左上に、細い字の書き入れがあります。そこを大きくしてみます。

『栗氏魚譜』コマ8の書き入れ「ホツケ 沖アユナメノ類ナルヘシ」の大写し
右から「ホツケ」「沖アユナメノ類」「ナルヘシ」。絵の左上の書き入れを切り出した。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『栗氏魚譜』第8冊・栗本丹洲・写本・NDL PID:1287426 コマ8・著作権保護期間満了)

「ホツケ 沖アユナメノ類ナルヘシ」。丹洲が書いたのはカタカナの名前と、沖にいるアイナメの仲間だろうという一言だけで、漢字はどこにもありません。その見立ては当たっていて、魚類データベース FishBase でもホッケはアイナメ科に分類されています。

魚へんに花の字に行き当たったのは、北海道庁が明治25年(1892年)に出した『北海道水産予察調査報告』のコマ128でした。右ページはブリの漁の話で、左ページの終わり近くに一字だけの見出しが立っています。

『北海道水産予察調査報告』コマ128の見開き。左ページの終わり近くに一字の見出し
『北海道水産予察調査報告』の見開き。右ページはブリの漁の説明。左ページの左寄りに、一字の見出しと「(方言ほつけ)」がある。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『北海道水産予察調査報告』北海道庁・明治25年・NDL PID:842781 コマ128・著作権保護期間満了)
『北海道水産予察調査報告』コマ128の見出し「𩸽(方言ほつけ)」と本文「𩸽ハ西海岸各地ニ於テ産ス」の大写し
右が見出し「𩸽(方言ほつけ)」。左が本文の書き出し「𩸽ハ西海岸各地ニ於テ産ス殊」。二か所を切り出して並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『北海道水産予察調査報告』北海道庁・明治25年・NDL PID:842781 コマ128・著作権保護期間満了)

「𩸽(方言ほつけ)」。活字は小さくつぶれぎみですが、魚の右側に草かんむりと「化」が見え、その下の「方言ほつけ」は、字のほうが正式で呼び名のほうが土地の言葉だという扱いになっています。

本文は「𩸽ハ西海岸各地ニ於テ産ス」と始まり、北海道の西海岸の各地でとれると続きますが、字は説明もなく当たり前のように使われていて、なぜ花なのかはこの報告書にも書いてありません。

中国語の読みがない字

鮎や鮭のように、中国の本と日本とで指す魚が違う字はいくつもありますが、𩸽にはそもそも比べる相手がいません。文字の国際規格のデータベース(Unihan)で、この字に登録されている読みは日本語の「ほっけ」だけで、中国語の読みは入っていないからです。

そのうえ明治のうちは、字どころか魚の名前そのものが全国では広く知られていなかったらしく、大槻文彦(おおつき・ふみひこ)の国語辞書『言海(げんかい)』(明治22〜24年刊)で「ほつけ」のあたりを開いても、それらしい項が出てきません。

『言海』コマ540の見開き。「ほ」で始まる言葉の並ぶ辞書のページ
『言海』の「ほ」の部のページ。左ページの上段に「ほつけう(法橋)」「ほつけしゆう(法華宗)」「ほつけだう(法華堂)」と仏教の言葉が並ぶ。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『言海』大槻文彦・明治22〜24年・NDL PID:992954 コマ540・著作権保護期間満了)

並んでいるのは「ほつけう(法橋)」「ほつけしゆう(法華宗)」「ほつけだう(法華堂)」といった仏教の言葉ばかりで、魚のホッケの項は見当たりません。明治30年(1897年)の『日本重要水産動物図』の解説でも、扱いはアイナメのついでです。

『日本重要水産動物図』解説コマ19の「あいなめ」「ほつけ又あぶらめト云フ」の大写し
右が見出し「あいなめ」。左がその説明の書き出し「ほつけ又あぶらめト云フ」。一列を二つに切って並べた。
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『日本重要水産動物図』解説・明治30年・NDL PID:1086762 コマ19・著作権保護期間満了)

「あいなめ ほつけ又あぶらめト云フ」とあって、見出しはアイナメ、「ほつけ」はその別名として出てくるだけで、ホッケだけの項はこの図鑑にありません。北海道の報告書が一字で書いていた魚は、同じころの国語辞書や全国向けの図鑑では、まだ一人前の見出しになっていなかったことになります。

アイナメの仲間で、オスが卵を守る

ホッケの基本データ

分類
アイナメ科
分布
ロシアの沿海地方、オホーツク海、千島列島から、茨城県・対馬、黄海まで
すみか
水深0〜240m。幼魚は海面近くで大きな群れをつくり、成魚は海底でくらす
大きさ
最大で全長62cm、体重1.8kg
寿命
記録では12年
産卵
水深20mより浅い岩場のすき間に卵のかたまりを産み、オスが卵を守る
北海道の水揚げ
年に6〜8万トン

分類から産卵までは FishBase、水揚げは北海道立総合研究機構の資料による

数字は、魚類データベース FishBase と、北海道立総合研究機構 中央水産試験場の発表資料「道産ホッケの美味しさ・食べやすさを活かす食品開発」で確かめました。この資料には北海道のホッケの使いみちも載っていて、すり身が48%、一夜干しが30%、餌料が13%で、生のまま出回る生鮮はわずか6%にとどまります。

豊洲の開き干しは1kg965円で、一年中ほとんど動かない

東京都中央卸売市場(豊洲市場など)の令和7年(2025年)の年次統計から、1kgあたりの平均価格を拾いました(東京都中央卸売市場 市場統計情報・年次統計資料、「品目別・月別平均価格」)。

統計の区分

年間平均(1kg)

いちばん高い月

いちばん安い月

ほっけ(生)

623円

10月 973円

4月 503円

開干ほっけ

965円

7月 997円

2月 930円

塩ほっけ

1,044円

10月 1,296円

2月 878円

開き干しの「開干ほっけ」は年間平均で1kg965円と、生のほっけ623円の1.5倍ほどで、量は年間3,009トン、金額は約29億円(同「主要品目別取扱高」)と、加工品のなかで6番目に多い品目でした。月ごとに見ると、いちばん高い7月が997円、いちばん安い2月が930円で、一年を通してほとんど値が動いていません。

筆者が市場で見てきたこと

市場で扱うホッケは開き干しが中心で、呼び名はとくに分けずにただ「ほっけ」と呼んでいます。鮮魚で入ってくるものは、すべて真ほっけです。

生のホッケで気をつけるのは鮮度落ちの早さで、においが出やすい魚です。刺身にするなら死後硬直が解けていないものを選び、表面に透明感があって乾いておらず、目が澄んでいて、体が硬直していて、においのないものが鮮度のよいものです。値は一年を通してあまり変わりません。

この経験を公開されている数字と突き合わせると、開き干しが中心であることは、一夜干しが30%で生鮮が6%という北海道の資料と重なりますし、値が動かないことも、開干ほっけの月ごとの平均が930円から997円のあいだに収まっていた統計のとおりです。生のほっけは4月の503円から10月の973円まで動いていますが、取引の中心は開き干しのほうにあります。

においについては、同じ北海道の資料が、魚ばなれの理由に「骨がある、食べにくい、臭いが嫌い」を挙げたうえで、ホッケの血合いの肉にはにおいのもとになる脂質などが多いと説明しています。

「法華」の伝説と、加賀へ送った塩漬け

ホッケという名前には言い伝えがあり、昭和11年(1936年)の『蝦夷地に於ける和人伝説攷』が、渡島国の亀田郡の東の端、椴法華(とどほっけ)の話としてコマ27に書きとめています。

『蝦夷地に於ける和人伝説攷』コマ27の椴法華の伝説5列と翻刻
「◇昔、日持上人が内地に於て布教に努まれて居たが、……今にこゝにこれ迄名前の無い魚を取れる樣にして上げようから、若し其魚を得たら法華と付ける樣にと言ひ殘された。所が其後はたして名稱不明の魚がどつさりとれたので、人々はその魚を法華とし、村の名をも椴法華と附ける事になつたと言ふ事であ(る)」
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『蝦夷地に於ける和人伝説攷』深瀬春一著・昭和11年・NDL PID:1461660 コマ27・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

◇昔、日持上人が内地に於て布教に努まれて居たが、上役人より迫害され、遂に島流しにされてしまつた。上人は運好く或岩に漂ひ着かれ、漁師に拾はれた。さて上人は此地を去る時、別に御禮をするものが無い故、今にこゝにこれ迄名前の無い魚を取れる樣にして上げようから、若し其魚を得たら法華と付ける樣にと言ひ殘された。所が其後はたして名稱不明の魚がどつさりとれたので、人々はその魚を法華とし、村の名をも椴法華と附ける事になつたと言ふ事であ

現代語訳

昔、日持上人は内地で布教に努めていたが、役人に迫害され、とうとう島流しにされた。上人は運よくある岩に流れ着き、漁師に拾われた。この地を去るとき、ほかにお礼をするものが無いので、いまにここで、これまで名前の無い魚がとれるようにしてあげよう、その魚がとれたら「法華」と名づけるように、と言い残した。その後はたして名前の分からない魚がたくさんとれたので、人々はその魚を法華とし、村の名も椴法華とつけることになった、という。

流れ着いた日持上人(にちじしょうにん)が、助けてくれた漁師への礼に、名前の無い魚がとれるようにしてやろう、とれたら「法華と付ける樣に」と言い残し、そのとおり名前の分からない魚がたくさんとれたので、人々はその魚を法華と呼んだ、という筋です。

もっとも著者自身がすぐ後ろに「これも地名より日持上人とホツケといふ魚とに結びつけたものに過ぎない」と書き添えていて、椴法華という地名が先にあり、そこへ上人と魚の名を結びつけた話にすぎないと見ています。

伝説より手ごたえがあるのは、明治25年の報告書の続き、コマ129にある漁の記録です。

『北海道水産予察調査報告』コマ129のホッケの漁期・漁具・製造の説明7列と翻刻
「漁期ハ春土用(中鰊期節)ヨリ入梅(後鰊終)迄ノ間及ビ十月ヨリ十一月迄ノ二期トス。而メ其十月以後ノ者ハ秋𩸽ト稱シ……製造ハ鹽漬トナスモアリ絞粕ニ製スルモアリ干物トナスモアリ。然レドモ近年多ク鹽漬トナシ加賀地方ニ輸出ス」
出典:国立国会図書館デジタルコレクション(『北海道水産予察調査報告』北海道庁・明治25年・NDL PID:842781 コマ129・著作権保護期間満了)
翻刻と現代語訳をテキストで読む

翻刻

漁期ハ春土用(中鰊期節)ヨリ入梅(後鰊終)迄ノ間及ビ十月ヨリ十一月迄ノ二期トス而メ其十月以後ノ者ハ秋𩸽ト稱シ茂津多岬ヨリ岩内ニ至ルノ間ニ限リテ漁獲アリ漁具ハ建網、差網、撥、かご等數種アリテ就中廣ク行ハルヽヲ差網及建網トス漁獲ハ各地極メテ不同アリテ多キハ建網一統ニ付四五百圓ヲ得ルモノアリ製造ハ鹽漬トナスモアリ絞粕ニ製スルモアリ干物トナスモアリ然レドモ近年多ク鹽漬トナシ加賀地方ニ輸出ス

現代語訳

漁期は、春の土用から入梅までと、10月から11月までの二期である。10月以後のものは「秋𩸽」と呼び、茂津多岬から岩内までの間に限って獲れる。漁具は建網、差網、かごなど数種類あり、なかでも広く使われるのは差網と建網。漁獲は土地によって大きく違い、多いところは建網一統で四、五百円を得る。製造は、塩漬けにするもの、絞り粕にするもの、干物にするものがある。けれども近年は多く塩漬けにして、加賀地方へ送り出している。

漁期は春の土用から入梅までと、10月から11月までの二回で、秋のものは「秋𩸽」と呼んだとあります。干物にも絞り粕にもするけれど、「近年多ク鹽漬トナシ加賀地方ニ輸出ス」、近ごろは多くを塩漬けにして加賀(いまの石川県)のほうへ送り出しているというのです。130年あまり前に塩漬けで北陸へ向かっていた北海道のホッケは、いまはすり身と開き干しになっています。

開き干しと、正月の飯ずし

FishBase も、この魚は生、干物、塩蔵、冷凍で利用され、焼いて食べられると書いていて、いちばん身近なのはやはり開き干しです。

農林水産省の北海道農政事務所がまとめた「受け継ぎたい 北海道の食」水産物編は、ホッケを飯ずし(いずし)の魚の一つに挙げています。魚と、大根・にんじん・キャベツなどの野菜を、こうじとご飯で漬け込んだもので、魚は「サケ、ホッケ、ハタハタ、カレイなど、地域で入手しやすいもの」が使われてきたとあり、11月の半ばに漬け込んで正月に食べます。

𩸽

  • 読みは「ほっけ」。魚へんに花、19画
  • 江戸の『栗氏魚譜』はカタカナで「ホツケ 沖アユナメノ類ナルヘシ」
  • 魚へんに花の字は、明治25年の北海道庁の報告書に「𩸽(方言ほつけ)」
  • 「法華」の伝説は昭和11年の本にあり、著者は地名と結びつけた話と見た
  • 東京の市場で開き干しは1kg965円。一年を通してほとんど動かない(令和7年)

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この記事でわかったこと

  • 「𩸽」と書いてホッケと読みます。

    Unicode の Unihan Database(U+29E3D)に登録されている読みは日本語の「ほっけ」だけで、画数は19画です。JIS X 0213 の第4水準の字なので、機器によっては表示できないことがあります。

  • 今回確認できたのは、北海道庁の『北海道水産予察調査報告』(明治25年=1892年)です。

    見出しに「𩸽(方言ほつけ)」とあり、本文も「𩸽ハ西海岸各地ニ於テ産ス」と書いています(NDL PID:842781 コマ128)。これより古い用例がないとは言えません。

  • 栗本丹洲の図譜『栗氏魚譜』は、しま模様の魚の絵に「ホツケ 沖アユナメノ類ナルヘシ」とカタカナで書き入れています(NDL PID:1287426 コマ8)。

    漢字は添えられていません。

  • 今回開いた本には、理由を書いたものはありませんでした。

    明治25年の北海道庁の報告書は、この字を説明なしに使っています(NDL PID:842781 コマ128)。

  • そういう言い伝えがあります。

    昭和11年(1936年)の『蝦夷地に於ける和人伝説攷』は、日持上人が「若し其魚を得たら法華と付ける樣に」と言い残したという椴法華の伝説を書きとめています。ただし著者は「地名より日持上人とホツケといふ魚とに結びつけたものに過ぎない」と書いています(NDL PID:1461660 コマ27)。

  • 東京都中央卸売市場の令和7年(2025年)の年次統計では、生の「ほっけ」の年間平均が1kg623円、開き干しの「開干ほっけ」が965円、「塩ほっけ」が1,044円でした。

    開干ほっけは月ごとの平均が930〜997円で、一年を通してほとんど変わりません。

この記事で開いた原本

どれも国立国会図書館デジタルコレクションで、無料・登録なしで読めます。コマ番号から該当ページが開きます。

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